逃げ足の早い秋の空と今日のみどりテラス

「ふわぁ!なんだか不思議な雲!」
ちゃーらーらーちゃーららー・・・
・・・
みなさん・・・おうちに・・・かえりましょう・・・・
夕方5時のチャイムが鳴ると、おれはソファからのそのそと起き出して、窓の外に目をやった。
西側の空には筋雲がぐるりと大きくとぐろを巻いている。その姿は、ほんのこの瞬間にしか見られない、そして決して同じ景色はない、創造的な筆使いに思える。

ハテ?と思い、思わずみどりテラス(おれらが暮らす団地の部屋のベランダのことだ)に出てみると、同じく、ハテ?という顔をしたリンくんが、ベランダ用のビーサンをつっかけて追いかけてきた。
「ボブお、秋の空だねぇ。」
「いやぁ、ホント。秋の空だねぇ。」
「ようやく秋なのかな?」
「うん、多分。ようやく、秋。」
「いつまで、続くかな?」
「いやぁ、おれにはわからない。明日か、あさってか。来週か。来月までは続かんでしょ?」
「そうなんだよねぇ。秋。すぐ逃げちゃう。」
「そうなんだよな。秋って、逃げ足がすばやい。」
「しゅたたたたーってね?」
「そうそう、しゅたたたたー!って。まるでリンくんじゃぁ追いつけないよ。フハッ!」
「アハッ!そうだね、わたしじゃ、絶対追いつけない。っていうかその前に転ぶわ。」
「ホント、どんくせぇな。リンくんは。」
「うん。どんくさい。ゴメン、どんくさくて。」
「いいよ、いまさら。そんなことで謝るなよ。」


「しゅたたたたー!」
「ん?何?」
「あいや、秋の空の、音。しゅたたたたー!」
「また変な音出して。もうちょっとゆっくり居座ってくれていいよな、秋。」
「そうだね。お茶でもすすって、のんびりしてってほしいね。」
むぎゅうっ・・・
「いやん、やめろよぉ。」
リンくんが急に腕に力を込めてギュッとハグしてきたから、おれはイヤンイヤンする。
「ホラ、ベランダのてすりから落ちちゃったらダメでしょ?だから。」

むぎゅうっ・・・
イヤンイヤン
むぎゅうぅぅぅぅっ!
イヤンイヤン・・・イヤン?
うーぅむ。
「うふふふふ!」
「アハハハハ!」
そんな、おれと、リンくんの、今日のみどりテラス。
しゅたたたたー!
ボブお

「うろこ雲と秋のTシャツ」
https://bobingreen.com/2023/10/05/6537/