ラアコところすけの紅葉デート
「おはーに!ラアコ、今日はおれと一緒にお出かけしようぜ。」
朝一番にわたしに声をかけてきたのは、ツキノワグマのころすけだった。昨日から、ニンゲンのリンくんと一緒に、我が家に遊びに来ている。
昨晩はリンママちゃん(リンくんの母)の作ったおでんで、リンアニ(リンくんの兄)も一緒に早めの忘年会をして大いに盛り上がった。ワインの酔いが心地よくまわって、そのあとはぐっすりと寝てしまった。
「いいよ。ラアコ、お出かけ、久しぶりなの。わぁい。」
行き先はというと、リクギエン(六義園)っていう場所なんだって。
「そこ、ドコ?何が、あるの?」
「あのね、えーっとね、駒込っていう街にある、広いお庭。紅葉見に行くよ。」
「コーヨー?」
「そうそう、紅葉。木々が、緑の葉っぱから赤や黄色に変わってね、いい景色なんだってさ。リンくんとリンママちゃんが行くって言うからさ、一緒についていこう?」
「うん!わかった!」
ニンゲンたちが出かける支度を終えると、わたしところすけはそれぞれ二手に分かれて出発した。ころすけはリンくんのトートバッグのなかに、わたしはリンママちゃんのエコバッグのなかに、身を潜める。
電車を乗り継いで着いた先で、ふはぁっ!と顔を出したら、そこは自然いっぱいのお庭だった。
「ラアコ、着いたよ。」
ころすけに言われて、わたしもリンママちゃんのバッグからのそのそと出る。
「えへへ、ちょっとウトウトしちゃってたぁ。」
「んもーラアコはいっつもおネムだもんな。ちょっとお散歩しよ。」
ころすけはスッと茶色いモコモコの手を差し出し、「ン。」とわたしの手をとった。
「まぁ、ころちゃんとラアコ、手つないでるの!カぁワイイわねぇー。」
リンママちゃんに冷やかされてちょっと照れるけれど、ころすけの手の毛並みは年相応の毛玉ぐあいを感じられて、わたしにはそれが心地よかった。
「ラアコ、手がすべすべしてる。」
「だってラアコまだ生まれて半年ちょっとだもの。」
「そぅか。半年かぁ。おれら、名古屋の東山動物園で出会ったんだもんな。」
「そうなの。あのときはなんのことやらわからなかったけど、いま、ラアコ毎日楽しいよ。」
「うん、良かったなぁ。リンママちゃんも仲間たちも優しいもんな。」
ころすけととりとめのない話をしながら、赤や黄色、オレンジに色づいた葉がハラハラと風に舞い落ちゆく姿を眺める。
ニンゲンたち、そう、リンくんもリンママちゃんも、それぞれに園内の写真を撮ってははしゃいでいる。
「ころすけ、ラアコ、コッチ向いてー。ハイッ。」
カシャッ
心地の良い軽いシャッター音が響く。リンくんは今日、わたしたちのカメラマンもしてくれていて、ころすけとのツーショットをたくさん撮ってくれている。
「うん、うん。いいね。カワイイよ、ホラ、ころすけもうちょっとラアコと寄り添って?あ、ラアコ、目線はコッチにお願いします。うん、オッケー。」
カシャッカシャッ
ふふ。なんだか、モデルになった気分。
六義園の池の周りに出ると、美しく整えられた緑色の松とその間に顔を出す赤や黄色に見とれてしまった。空は青く薄らと雲がかかり、その様子が池の水面に反射しているのもキレイなの。
「へぇ。リクギエン、いいね。」
「ラアコ、渋いなぁ。六義園のお庭の良さがわかるの?もうすっかりオトナのコアラさんだね。」
「ううん、ラアコ、まだコドモだもん。」
「そうか、じゃあ、手を離すなよ。」
「うふふ。わかった。」
ころすけは優しくわたしを見つめて、つないだ手をギュッとした。
「まぁ季節外れのつつじ!桜の狂い咲きとは聞くけれど、つつじは初めてねぇ!」
リンママちゃんは目に入る色のついたものにいちいち反応しては、大好きなiPhoneのカメラを向けている。鮮やかなピンク色のつつじの花は本来4月から5月にかけて咲くものらしいね。わたしは、5月のリンママちゃんのお誕生日プレゼントとしてやってきた5月生まれだから、もしかしたらわたしのお花なのかもしれない。
「ラアコたちが来たから、咲いてくれたのかもね!」
リンママちゃんに言ってみたのだけれど、もうそこにはおらず、ぐんぐんと順路を進んで先に行ってしまっていた。
その後も、紅葉のグラデーションのトンネルを見上げたり、ベンチに座っておしゃべりしたり、わたしたちは園内を楽しく散策した。
「ラアコ、コレどーぞ。」
リンくんが一枚の赤い紅葉の葉を拾い上げ、わたしのアタマの上にのせた。
「ン?」
「似合う、似合う。」
やわらかな小春日和の日差しの下、わたしはうっとりとあたたかさを感じる。隣には大好きなころすけがいて、ジィっと見守っていてくれる。
「ラアコ、リクギエン来られて良かったの。アリガトなの。」
「どういたしまして。ラアコ、そろそろハラ減ったでしょ?」
「えへへ、実はそうなの。おなかすいてきちゃった。」
「アハッ!そう思って、今日はちゃんとランチも予約してあるぜ。あ、予約したのはリンくんだけどな。」
わたしたちは六義園を後にして、地下鉄で3つ。後楽園駅にやってきた。
地上に出ると大きな白い丸いものがあって、それからぐにゃりと曲がった橋のようなものが見える。
「あ!ラアコね、あの白いの知ってるぅ。東京ドーム!」
「正解。あ、そっか・・・いっつも野球見てるもんね。」
そう。我が家はいつもテレビで野球が流れているから、わたし、東京ドームのことは知ってるもんね。
突然ころすけがスタスタと進み出て、くるりとコチラに振り返った。
「後楽園ゆうえんちで、ボクと握手!」
・・・ハテ?なんのことやら?
「あ・・・ラアコはわからないか・・・。ゴメン・・・。」
んー。ころすけとのジェネレーションギャップを大いに感じつつ、わたしたちは大きなビルの方へ向かって人混みを押しのけつつ進んでいった。今日は韓国アイドルのライブがあるらしく、東京ドームの周りにはハングル文字で書かれたうちわやタオルやグッズを抱えた若いオネーさんたちがたくさん集まっていた。
「ラアコ、こちらでございます。足元気をつけてね。」
ころすけは東京ドームホテルの中に入るやいなや、やけに丁重な態度になってわたしをエスコートした。
「ハイ、気をつけます。うふふ。」
展望エレベーターにはニンゲンがたくさん乗っていて、小さなわたしたちは端っこで文字通り小さくなっていたけれど、最上階で降りるとそこはものすごい絶景だったよ。
さっきまで目の前に見えていた東京ドームが、今は真下に見えているよ。大きな通り沿いには紅葉した木々の並木があり、それを見下ろすのも楽しい。
あ、そうそう。リンくんが予約してくれていたイタリアンランチは、なんだかまるでデートそのものだった。
窓際の横並びの席でトーキョーの街を見下ろしながらグラスのスパークリングワインでカンパイ。まるでアフタヌーンティーのように盛られたオシャレな前菜が出てきて、パスタを食べて、それからメイン料理、デザートとコーヒーまで。ホントにどれも美しく、おいしくいただくことができたよ。
リンくんとリンママちゃんはワインをおかわりしながらあーでもないこーでもないといろんなおしゃべりをし、ころすけとわたしは寄り添って一緒に景色を眺めて、心ゆくまでこの時間を楽しんだ。
六義園の紅葉デート、すばらしいお天気に恵まれて、とってもロマンチックだったわ!
それからころすけの優しい手と、あたたかい気遣いにいやされたの。
ラアコ、とっても楽しいひとときを過ごしたよ。
そうね、唯一、ひとつだけ残念だったことがあるとすれば・・・。
ユーカリがなかったことだけれど、こればっかりは仕方ないわね。
ニンゲンと暮らすようになってから、味覚もすっかりニンゲンみたいになってきちゃったけれど、時折、無性に食べたくなるときがあるのよね・・・ユーカリ。
ウフフ。
ころすけ、ステキなイチニチをどうもありがとう。また、一緒にお出かけ行こうね。
ラアコ
▼ころすけとラアコのデートコース▼
六義園 (東京都文京区本駒込)
https://www.tokyo-park.or.jp/park/rikugien/index.html
東京ドームホテル 43Fスカイラウンジ&ダイニング「アーティスト カフェ」
https://www.tokyodome-hotels.co.jp/restaurants/list/artistcafe/
「お不動さんのお導きの先には紅葉と長命泉とうなりくん」
https://bobingreen.com/2023/11/27/7107/
「勘九郎の紅葉狩り」
https://bobingreen.com/2022/11/29/3099/