ひと月遅れのアジサイ

「あぁ、ゴメン!ほんっと、今年はこんなに待たせてしまって、申し訳なかったね。」

おれは紫色がよく似合う可憐なあのコに向かって、平謝りをする。鮮やかなグリーンのスカートには透明な水玉が浮かびあがっている。

・・・。

コトバは発さないけれど、その姿には強い意志を感じた。

(「ココで待っていたら、会えるかなって思ってたよ。待っていたよ。」)

「ひと月も待たせて、ゴメンね。待ちくたびれた?でも、会えて良かった。ありがとう。」

(「ボブおくん、おたんじょうび、おめでとう。ひと月遅れちゃって、ごめんね。」)

まるでそう言ってお祝いしてくれているかのようだった。

こんにちわーに。ライオンのボブおです。

おれね、6月の生まれなのね。6月生まれだからってわけじゃないけれどさ、おれはアジサイの花が好きなんだ。だから、毎年6月になるとキレイにアジサイが咲いている場所を探して記念撮影するんだよね。
(昨年2023年のお話はコチラ「おれと相合い傘、する?」

でも。
今年はちょっと特別な6月だった。そう、オトモダチのなかには知ってくれてるひともいるかもしれないけれど、うちのリンくんが入院してたんだ。ちょうどおれの誕生日の前後、2週間くらい。それで、退院したのは6月末。

リンくんがおうちに帰ってきてからもまだろくにお散歩にも出られなかったから、あっという間に7月がやってきて、アジサイの美しい梅雨の季節もピークを過ぎてしまった。

そんなこんなで、当然だけど、今年はアジサイを見におでかけすることができなくってさ。まーしょーがないよね、そんな年もあるよね、って諦めてたんだ、おれ。

「ボブお、ごめんね。今年はアジサイ見に連れて行ってあげられなかったね。」

入院生活を経てちょっとだけ顔が小さくなったリンくんが、おれに謝ってくる。

「いいんだよ、無事にリンくんが帰ってきたから。来年また見に行こーぜ。」

おれは強がりもせず、淡々と答える。

「あのね、病室の洗面台の横にあったカレンダーがアジサイのキレイな写真でね。6月中に退院できるのかなぁ、ボブおの写真撮ってあげられるかなぁって、毎日眺めてたんだよねー。残念。」

そう、リンくんの病室にはおれも何度か言っていたから、チラッと見えてはいた。アジサイが咲き誇る山の写真だった。

「うん。たしかに、そうだったね。ま、6月中に帰ってこられて良かったな。来年は行こうな。」

“リンくんの病室の洗面台の横にかかっていたカレンダーはアジサイだった”

なのに。

あれから、そう、ちょうどリンくんが入院した日から、ちょうどひと月たった日。

おれらは愛車のモビスケに乗って、ちょいとドライブに出かけたんだ。リンくんが退院してから初めてのちゃんとしたお出かけだった。

チーバから少し離れた、カナガーワのちょっとだけ山の上。そしたらね、アジサイが咲いているのを見つけたんだよ!たしかに少しだけチーバよりも涼しい場所だから、咲き始めも遅かったのかもしれないね。まだ、枯れることなく残っていたみたい。

まるで奇跡なんだ!

梅雨の最後の最後に降った大雨があがり、その露が、ガクアジサイの輪郭を美しく濡らしていた。

おれ、今年もアジサイに会えた。 

ひと月遅れのアジサイ。

そんな年があってもいい。

「ボブお、おたんじょうびおめでとう。ひと月遅れだけど、アジサイと祝えて良かった。」

リンくんはそういうと、カメラのシャッターを押す。

まだ筋力が落ちておぼつかない足取りのリンくんに、おれは抱っこされたまま、アジサイの花に顔を近づけた。

「アジサイさん、ここで待っていてくれて、どうもありがとう。」

(「どういたしまして。」)

「紫の君に、また来年会えるだろうか。」

(「うふふ、いいえ。来年は、チーバで会いましょうね。」)

そう言うと、アジサイはひらりとスカートの裾を翻して、背中を見せてしまった。

その途端、ジリジリと夏の日射しが雲間から突き刺してきたのを感じた。
ようやく、おれにも夏が来た。

ありがとう、アジサイさん。

ボブお

「入院患者の皆さまへお願い?否、鰻とおれのたんじょうび – リンくんが入院した その2」
https://bobingreen.com/2024/06/15/9456/

「やーったやった!やったったー! – リンくん退院できるってよ その1」
https://bobingreen.com/2024/06/24/9589/

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Rin(リン)

ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。 ライオンのボブ家と愉快な仲間たち、そしてニンゲンのケンイツ園長と一緒に、みどりキャンプ場で暮らしています。 ボブ家の日常を、彼らの視点でつづっていきます。

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