うづめの神さまにごあいさつをする

「いいかい、うづめ。ココは神さまのいる場所なんだよ。しかもうづめの神さま、うづめが名前をいただいた、その神さまのいる場所なんだよ。しっかりとごあいさつするように。」

「チュン!カミチュン!チュンチュン!(わかった!)」

ぺこっぺこっ・・・ぱんっぱんっ・・・ぺこっ

おれが二礼二拍手一礼の作法をうづめに教えると、うづめはまったくごく自然に、おれと同じような間でもって真似をした。
だから、おれは安心してその息づかいを感じ取りながら、一緒にココロを込めて、ごあいさつをした。

(この小さなスズメは、我がボブ家にやってきた、名をうづめといいゆます。天宇受売命(あまのうづめのみこと)からいただいて、うづめと名付けました。きっと、明るく陽気な力を我が家に与えてくれるはずです。もしも仲間が暗がりにいるときにも、日の光のもとに呼び寄せて、その世の中を楽しいものにしてくれるでしょう。天宇受売命さま、どうか、うづめのことを、お見守りください。)

おれがお参りを終えると、うづめはコッチをジィっと見つめていた。

“伊勢の佐瑠女神社。うづめがその名をいただいた、天宇受売命がいらっしゃる場所だよ”

「カミチュン。」

「なぁに?」

「うづめ、うづめの神さまにごあいさつしたチュン。」

「お?うづめ、コトバしゃべってる!」

「チュン?え?」

「おれらのコトバ、話せるようになったんだ?」

「うふふ。ココ、好きだよ。」

「ココ?佐瑠女神社のことだね。」

「そうチュン。とっても安心するし、ココロがいっぱいになったよ。」

「そぉか、そぉか。そりゃあよかった。うづめの神さまのいる場所のことが好きになってよかった。」

「よかったチュン!チュン!」

そういうとクリーム色の毛糸のマントを跳ね上げて、うづめはぴょんぴょんと飛び跳ねたのだった。

“天宇受売命(あまのうずめのみこと / あめのうづめのみこと)”

こんにちわーに。ライオンのボブおです。
オハナ(家族)のみんなからは時折カミって呼ばれてるんだ。まぁおれは神社好きのライオンで、我が家のまもり神ってことになっているからなんだけれどね。それで、うづめからもカミチュンって呼ばれている。

ここはミーエ(三重県)は伊勢、佐瑠女(さるめ)神社にいます。伊勢神宮内宮の参道からほど近い立地にあって、猿田彦神社のほうが知られているかな、その猿田彦神社の境内のなかにある神社なんだ。これまでにも猿田彦さんのお参りのことはお話してきているよね。佐瑠女神社に祀られているのが、天宇受売命(あまのうづめのみこと)、うづめの神さまなんだ。猿田彦さんとは夫婦とも言われていてね、一緒にお祀りされているってわけさ。

ちょっとだけ復習ね。
天宇受売命っていうのは、かのアマテラスさん(天照大神)が弟である須佐男命(すさのおのみこと)のあまりの粗暴ぶりを悲しんで天岩戸におかくれになってしまったときに、大活躍した神さまなんだ。イメージとしては、アマテラスさん自らが真っ暗な押入れ、もしくは納屋みたいなところに閉じこもってしまったという感じかな?アマテラスさんはお日さまの神さまだから、おかくれになってしまったことで世の中から光が一切失われてしまったんだ。

民はそれでは困る、ということでどうしようと混乱をしていたときに、天宇受売命がひと肌、文字通りひと肌脱いで、歌えや踊れや、楽しい宴を開いた。アマテラスさんってば、アラま、なんだか外は楽しそうねぇ・・・!ってことで戸を開けて出てきてくれた、というお話だよ。

日本の神話っていうのは神さまがいぃっぱい出てきて、なんでもかんでも神さまになっちゃうからおもしろいよね。その逸話から、天宇受売命は芸能の神さまっていわれているんだ。この佐瑠女神社にはたくさんの芸能人が訪れているみたいだね。

前置きが長くなっちゃったけれど。

佐瑠女神社で天宇受売命に無事にごあいさつを終えて、それから、お伊勢参りの本丸、内宮さんへ向かった。

昨年一昨年に引き続き、今年もこの年の瀬、12月下旬のタイミングでのお伊勢参りだ。午前11時過ぎの大鳥居の前にはすでに人だかりができている。毎年健康だからこそお参りに来られているそのことに感謝しつつ、五十鈴橋を渡る。キラキラと輝く水面の合間には白い影と黒い影。白はシラサギ、黒はカワウだ。神さまのお清めの川辺で、仲良く羽を乾かしたり毛づくろいをしている鳥たちは、単なる野鳥よりも神々しく見えるから不思議なんだ。

“カワウさんとシラサギさん”

ジャリッジャリッ

一歩一歩、砂利道を踏みしめて歩く。あぁ、そういえば、昨年はすこぉし雪が残っていたな、なんてそんなことを思い出す。今年はというと、おれのたてがみをなでる風は冷たいけれど、空を見上げれば、快晴だ。

手水舎に着くと、お清めの儀式だ。

「いいかい、うづめ。右手に柄杓をもってね、左手、右手の順番で穢れを落とす。それから左手に溜めた水で口をゆすいで、その左手をすすいでから、最後、右手に持った柄杓をタテにして持ち手をきれいにする。オッケー?」

「ハテ?ハテハテ?むずかしいチュン・・・。」

チュンチュンチュン!チュン!

ふふ、仕方ない。うづめは、スズメらしく水たまりのほうがいいみたい。手水舎は難しかったみたいだから、五十鈴川のほとりでそのカラダをちゃぽんとつけてお清めをした。

“スズメさんらしく、五十鈴川でダイレクトに水浴びしてお清めするうづめ”

おれはというと、カラダが濡れるのはけっこうニガテなので、川端ではじぃっと対岸を眺めていた。

ひょこひょこ
ひょこひょこ
チョンチョンチョン

「ン!あれ?ハクセキレイ?動きはそっくりだけど・・・いや、おなかが黄色っぽいなぁ。黄色い、セキレイの仲間かな?」

神さまの神聖な川で遊ぶキイロイトリは、キセキレイだった。これまでお伊勢さんには何度となくお参りに来ているけれど、鳥さんのことを気にしたのは初めてだった。

“おなかの黄色が美しいキイロイトリ、キセキレイ”

「やっぱりうづめが我が家にやってきたからかもね。」

おれがそういうと、うづめは水浴び・・・いや、お清めをやめて、ぷるぷるっとそのカラダを震わせた。

「うづめ、風邪引いちゃうよ。ちゃんといつものマント羽織ってくださいよ。」

「チュン。寒いのニガテだもの。ちゃんと着るからちょっと待っていて。」

あらあら、身支度整えて、ほら、行きますよ。

それにしても佐瑠女神社でお参りを終えたうづめはすっかり饒舌だ。まだ1時間と経っていないというのに、コトバを覚えてどんどん話すようになっているのだから、すごいとしか言いようがない。

「いいかい、うづめ。ココは、アマテラスさんのいらっしゃる、この国日本でいちばん由緒のある神社のひとつだからね。さっきのお参りの作法、覚えたね?」

「チュン!ニレイニハクシュイチレイ、チュン!」

なんて物覚えもいいの。神さまの地にやってきて、うづめがメキメキと成長しているのを感じるよ。

正宮の前まで到着すると、ふわぁっと風が抜けていった。

「さ。この階段をのぼっていくと、拝殿があるよ。立派だから、きっと驚くよ。」

そういって、おれらは右足からのぼりはじめた。・・・おっと、おれには足はないけれどな。キモチだよ、キモチ。

最後の鳥居をくぐって、いざ。

ぺこっぺこっ・・・ぱんっぱんっ・・・ぺこっ

しぃんとした空気を一瞬感じ取り、ひと呼吸置いてから、他の参拝客のジャマにならないようにその場を左へ避けた。

おれはとっても清々しい気分になって、隣にいるうづめの方をチラリと見た。

「カミチュン。カミ、いた。」

「神さま、いた?」

「チュン。カミさま、いた。」

「そうそう、カミ、じゃなくて、神さま、ね。」

うづめは、天照大御神のいらっしゃる内宮にもお参りすることができて、ようやくちゃんと我が家の一員としてごあいさつができたね。

「うづめ。改めまして、ようこそボブ家へ。どうぞ、よろしくね。末永くね。勝手にアッチコッチ行って迷子になっちゃダメだからね。いつだって、一緒だよ。」

「チュン!よろしくチュン!」

“伊勢神宮内宮の正宮前にて。うづめ、アマテラスさんにご挨拶できたね”

ジャリッジャリッ

おれらは内宮の帰り道を、寄り添って歩いて大鳥居まで戻った。

おはらい町のいつもの伊勢萬で、お神酒をいただくのも忘れずに、ね。

うづめの神さまにごあいさつできて、おれも身が引き締まる思いだよ。
カミチュンのお役目、精一杯がんばります。

ボブお

“定番の伊勢萬酒蔵、おかげさまのお神酒をいただいたよ”

「ライオンと、とらとうまといぬ」

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Rin(リン)

ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。 ライオンのボブ家と愉快な仲間たち、そしてニンゲンのケンイツ園長と一緒に、みどりキャンプ場で暮らしています。 ボブ家の日常を、彼らの視点でつづっていきます。

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