ゲージュツガクブの課外授業(後編)
「ハイッ!ではすずちゃん、フクちゃん!ふたつめの課題に移るよ。」
「ハーイッ!」
こんにちわーに!
オハナ学園小等部一年生、ウサギのすずこと、鈴之助です!
ゲージュツ(芸術)を学ぶための課外授業でね、箱根彫刻の森美術館に来ているよ。
※前編を読んでいないひとはコチラからどうぞ!→ 「ゲージュツガクブの課外授業(前編)」
――― ゲージュツガクブ課外授業 時間割 ―――
【1時間目】 二匹のウサギさんを見つけよう
【2時間目】 白と黄色のおいしいもの、なーんだ?
【3時間目】 Pで始まるゲージュツに触れよう
【4時間目】 不思議なカラフル空間を体感しよう
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【2時間目】 白と黄色のおいしいもの、なーんだ?
「この広いお庭の中にね、白と黄色のおいしいもののオブジェがあるんだって。それを探すのが、ふたつめの課題だよ!」
リン先生・・・んっと、やっぱり先生じゃないよね・・・リンくんの作った時間割を見て、フクがフシギそうな顔をしてるの。
「あーいっ。ところで、白と黄色のおいしいものってナンダロー?」
「すずはオヤサイが好きだからぁー・・・、白はダイコンでぇ、黄色はカボチャかな?それとも、白はセロリで、黄色はパプリカ?」
「アッ!フク、わかったの!!!」
「はい、フクちゃん、どうぞ?」
リンくんにうながされたフクが、うれしそうに右手を挙げる。あ、フク、口元にヨダレが光ってるよ。
「タマゴ!タマゴ大好き!タマゴっ!タマゴっ!」
「おっと!さすが!食いしん坊フクちゃん。なんでもおいしく食べるもんねぇ!白身と黄身のタマゴ、正解です!」
「わぁいわぁい!」
フクはすごいの。すずは食べものっていうとオヤサイばっかりだから、全然思いつかなかったなぁ!白と黄色のおいしいタマゴのオブジェだって。どんなオブジェかな?
「みんなで探しに行こー!」
クンクン・・・クンクン・・・
「フク、何してるの?」
「エッだって、おいしいものはいいニオイするじゃない?だから、お鼻クンクンしてるの!」
「あはは!オブジェだからホンモノのニオイはしないかもねぇー?」
「そぉなのぉー!エーッ!ちょっと残念。。。」
うふふ。うふふ。
フクは食べることが大好きで、とってもかわいいの。
「じゃあ、すずがパタパタ飛んで探してくるよ!」
「あーん、フクもすずちゃんと探しに行くぅ!」
パタパタパタパタ!
ぷくぷくぷくぷく!
「ハァ・・・ハァ・・・待ってぇぇぇぇぇ!すずー、フクー!早いよぉ!わたしを置いていかないでー!」
あ、いけないいけない。またリンくんを置いてきぼりにして迷子にしちゃうところだった。
アハッ!
「あー・・・ちかれたぁ・・・すずもフクも元気だぁねぇ・・・!」
小汗をかいたリンくんが、よっこらせ、とベンチに腰かけた。
フシギな曲線を描いた、白くて大きな円形のベンチだ。背もたれという背もたれはないけれど、ふくらみがあって、そこは黄色く塗られている。
「・・・!」
「・・・!」
エヘヘ、すず、気がついちゃった・・・!
「ハッケンハッケン!ハッケンです!すず、ハッケンいたしました!」
「へ?」
汗をフキフキ、不思議そうな顔をするリンくん。
「コレだよ!コレ!このベンチ、タマゴだよ!目玉焼きになってるー!ていうかリンくん、いま目玉焼きの白身に座ってるよ!」
「まじか!」
わかりやすくあたふたあたふたしているリンくん。おもむろに立って少し遠くから見直してみる。
「はぁ・・・ホントだぁ!おいしそうなトゥルンとした黄身・・・!」
リンくんとフク、ふたりして今にもヨダレをたらしそうになるくらい口元がゆがんでるよ。
「わぁー!ふたつめの課題、クリアだね!やったぁやったぁ!」
(・・・グゥルルルルル・・・)
フクとふたりで記念撮影してると、隣からオナカの音が聞こえた。
「あれっ、フク、おなかすいたの?」
「ねーねー、この目玉焼き見たら食べたくなっちゃったよぉ!」
フクはやっぱり食いしん坊さんだな!アハッ!
【3時間目】 Pで始まるゲージュツに触れよう
「ハァイ、まだまだ半分くらいしかまわれてないよ。ホンット広いねぇ。お次は室内に行ってみようか!”ピー(P)”で始まるゲージュツカの作品がいっぱいあるんだよ。さ、Pを探そうね。」
「ぴー!ぴぴー!ぴー!ぴー!ぴぴー!」
「それは、ティー(T)ね・・・。。。ま、いっか。ピーのある建物へ向かうよ。」
「アッアッアッ!もう見っけ!めっちゃおっきく書いてあるもん!」
「ピー、アイ、シィ、エィ、エス、もいっちょエス、オー・・・さん、ってこと?」
「ハイ、すず、見つけるの早くなったねぇ!ピカソって読むよ。ピカソさんっていう偉大なゲージュツカさんだよ。早速行ってみよ。」
リンくんがポケットからパンフレットを取り出して確認して、ホォとかフーンとか言っている。
「来たことあるはずだけど、ひとつひとつの作品はちゃんと覚えてないなぁ。」
ここはね、ピカソ館という建物なんだって。この美術館ではピカソコレクションを319点も所蔵しているそうだ。リンくんは子供の頃に連れてきてもらったことがあるらしいんだけどね、その時とはどうやら展示が大きく変わっているみたい。
入り口を入ると撮影NG。
もしもすずたちが自由に動き回るともしかすると係の人に怒られちゃうかも、ってリンくんが脅すから、静かにトートバッグの中に入ったの。
なのにね。フクってば小声で歌い始めた。
「(ぐっちゃぐちゃーのぐっちゃぐちゃーのぐっちゃぐちゃーのぐっちゃぐちゃ!)」
フク、静かにしてて。
「(ぐっちゃぐちゃーのぐっちゃぐちゃーのぐっちゃぐちゃーのぐっちゃぐちゃ!)」
フクの言いたいことはこういうことらしい。
人の顔のパーツがあっちゃこっちゃしてる(キュビズムのこと)のを、ぐっちゃぐちゃーっていう表現をしたみたい。
ちなみにこのお歌はすずとフクのオヤビン(親分)であるボブぞオヤビンが作った曲だ。大好きな煮玉子をポケットに入れてたたくと、ふたつに増える・・・ではなく、ぐっちゃぐちゃになるよ、って歌詞のお歌だ。
「フク、楽しいのね?」
「(ウンッ)」
どうやらフクは2時間目の課題のタマゴを見てから、タマゴを食べたくて仕方ないモードに入ったみたい。
フクってば、やっぱり食いしん坊さんなんだから。。。
フクの歌声を聞きながら、ピカソ館をぐるりと歩いて見ていると、お皿がたくさん並んでいるコーナーがあった。
「お皿におさかなの絵が描いてあるよ!」
ピカソさん、絵を書くだけじゃなくて、お皿なんかの陶芸品もたくさん作っていたんだって。花瓶の絵を描いた花瓶、とか、料理の絵を描いた大皿、とか、そういったちょっとおもしろいものがたくさん並んでいた。
中でも、フクはおさかなの絵の描いてあるお皿が気に入ったみたい。
「フク、おさかな大好きだもーん!おっさっかなー!このお皿でおさかな食べてみたいなぁ・・・!」
「フクちゃん、むむむむりだから。このお皿でほんとに料理食べたら大変なことになるから。」
あわあわあわあわ・・・!
あわてふためくリンくん。
いまにもバッグから飛び出しそうになっているハラヘリのフクを、お皿の展示の前から無理やり引き剥がして、いそいそとピカソ館を後にしたのだった。
【4時間目】 不思議なカラフル空間を体感しよう
「フゥー。いよいよ4時間目、すずちゃん、フクちゃん。ついに最後の課題ですよーぉ。不思議なカラフル空間があるんだって。そこでお写真撮ろう!・・・フゥ・・・。」
「ねぇねぇ、リンくんすでに疲れてない?」
彫刻の森美術館に入館してから、はや2時間が経とうとしていた。
普段から1万歩くらい平気で歩けるリンくんだけど、館内は意外と起伏があって、アッチコッチソッチコッチと歩きまわると疲れてくるみたい。
「ダイジョブだぁー!」
ンー、やっぱりリンくん、ちょっと疲れてるみたい。アハッ。
「その不思議なカラフル空間って、ドコのこと?」
濃いピンクの八重桜が満開に咲き誇る真下にあるベンチでふくらはぎをさすっているリンくんが、無言で指をさした。
「アレのことみたい。」
「アレ?」
お日さまみたいな金色のまぁるいマークのついた、高い塔がそこにあったの。
「わっ!すずがシャキーンって立ったときみたいに姿勢のいい建物だぁ!すずも一緒にシャキーンしよぉっと!」
シャキーン!
1時間目、2時間目、3時間目。それぞれの課題をクリアしてきたけれど、この最後の課題は、もうこれで終わり?こんなカンタンでいいのかな?
「リンくん、コレで終わり?」
「ううん。カラフルな空間、って言ったでしょ?」
「アッ、そっか。」
「あの塔の、中に入れるんだって。さ、行こう!」
オハナ学園ゲージュツガクブ課外授業 in 箱根彫刻の森美術館、最後の課題。
これからあの塔の中に、センニューセンニュー、潜入調査ですっ!!!
一歩ずつ一歩ずつ、塔の入り口を目指して歩く。
足元の美しい黄緑色の芝生と、ところどころに華を与える八重桜のコントラストが本当にキレイなの。
さっきまで課題に一生懸命であまり他のお客さんたちのことが気にならなかったのだけど、どんどんニンゲンの人数が増えている感じがする。聞こえてくるコトバは、ほとんどわからない。
エーゴ(英語)?ううん、エーゴも聞こえてはくるけれど、もっと違う、聞き慣れない発声発音が飛び交っている。
「ほんっと、いろんなところから来てるんだねぇ。箱根のインバウンド復活、すごいわぁ!ちょっと嬉しいなぁ。」
みんなカメラやスマホを構えて、記念写真を撮っている。
すずとフクもお外に出て、パシャパシャとリンくんに写真を撮られていたら、すぐそばにいたアジア系のファミリーと目が合ったの。
「こんにちは。(ニコぉっ!)」
「・・・(ニコ!)」
何語で挨拶していいかわからないときは、やっぱり笑顔がイチバンだよね。
塔の入り口に到着すると、すぐに階段だった。
「コレ、まさか上まで登るのかな・・・。。。」
弱気なリンくんを横目に、すずが先導してあげたの。
「リンくん、行くよー。もし登れなかったら、すずは、パタパタ羽根で飛んで登るからダイジョブ。」
「フクもすずちゃんについてってぷくぷく飛ぶからダイジョブ!」
「そっか!じゃ、行こう。」
5段ほどの階段を登っただけで、そこにはもう異空間が広がっていた。
「!!!カラフル空間、あった!あったよー!」
「ステンドグラスかぁー!外側から見ただけじゃ、まさかこんな世界が待っているとはわからなかったよ・・・!」
ずぅっと上まで、カラフルなガラスがモザイク状にはまっていて、さまざまな色の光を作り出している。見る角度によっても色の混ざり方が変わってくるのが面白い。
「万華鏡の中に入り込んだような、そんな感じだね。」
「マンゲキョー???」
らせん階段が塔の中心にあって、いちばん上の方まで続いているようだった。どうやら最上部に展望スペースがあるらしいの。たくさんのニンゲンたちが列をなして登っていたけれどね、すずたちは、下から見上げているのがものすごくキレイだと思ったから、そのまましばらくボォっとすることにした。
それからね、リンくんに抱っこされたまま、ぐるぐると360°カラダを回転させたり、腰をひねってみたり、ちょこっと飛んでみたりしながら、いーーーっぱい写真を撮ってもらったんだよ!
「はい!これで、本日の最終課題、完了です!すずちゃん、フクちゃん、お疲れさまでしたぁ!!!」
「ゲージュツの課外授業、とってもとっても楽しかったァァァァ!」
「わたしも、すっごく楽しかったよ!来て良かったね。」
すずのゲージュツのお勉強はまだ始まったばかりなの。
これからもいっぱいいっぱい楽しいことして、キレイなもの見たり、不思議な体験したりして、ゲージュツセンスを磨いていくんだもんね。
「一緒にがーんばろっ!ね?フク?」
「うん!フクも、すずちゃんといっぱい遊ぶの頑張るぅ!」
そう。みんなで一緒に同じ場所で同じもの見て、同じもの食べて、同じうこ💩する。
いっぱいのコトバで感想を言ったり表現をして、どんどん成長をしていくんだ。
箱根のゲージュツは難しいものもいっぱいあったけど、楽しくて気持ちよくって好きって思ったから、大成功だったよー!
また来るよー!はこねー!
すず(鈴之助)
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