シジマルの秋さんぽ
ほぉう。こんなイベント、やってるんだね。
コレ、行ってみたい。
毎週木曜日にポストに入る”ちいき新聞”を開いたリンくん、いつも、フゥンと言って鼻を鳴らしてはざっと眺めてゴミ箱に捨てるのだが、今週の号は食卓の上に大事に取ってある。
それは、市内のとある公園で開かれるという、青空ハンドメイドマーケットの宣伝記事だった。わたしたちの暮らす町はさほど広くはないにもかかわらず、その公園の名前は初耳だった。我が家から歩きだと1時間かからないくらいかな?天気さえ悪くなければ、運動を兼ねた休日の散歩にはちょうど良い。
わたしも!わたしも、行きたいです。
リンくんに便乗して、わたしはピョンと手のひらに乗って意思表明をしたの。
あ、今日は、わたし、シジマルだよ。
わたしは、森や林の中を歩くのが好き。いろいろな草花を眺めて、クンクンと香りをかぐと、とても想像力がわくんだ。公園と聞いて、このおでかけチャンスを逃すまいと思ってね。リンくんのリュックに入って、秋のおさんぽです。
昨日までの雨が上がって、少しずつ空が明るみはじめていた。少しずつ陽が射してきて、肌寒い空気が一変した。
なんか、暑いくらいだね。
10月も半ば、気温が乱高下して着るものの調整が難しい、とリンくんが言う。
そうだね、と同調してみるけれど、あ、わたしは裸ん坊なんだけどね。
目的の公園は駅向こうの線路沿いらしい。エリアとしては車で通ったことは何度もあるのだけれど、そんなところにマーケットを開けるくらいの公園があるだなんて知らなかった。
リンくんと歩いていると、小さな子供を連れたファミリーがどんどんと集まってきた。みんな同じ方向に向かっているらしい。子供たちはドレスを着たり、羽根を背中につけたり、かぶりものをしたりと思い思いの格好をしている。ほっぺたにひげを描いたりフェイスペインティングをしている子たちもいる。
あー、サイト見たら、書いてあったよ。仮装していくとお菓子もらえるんだって。
えーっそうなの?わたしも何か仮装すればよかったかなぁー。あ、某ディズニーの某ネコちゃんの仮装ですって・・・?
いやいやいやいや。シジマル、そりゃあダメでしょぉねぇ。どこからどう見ても、そのものですから。
うーん。ジェラトーニの仮装、では通じないみたいです。残念。
公園に着くと、思いのほかの人だかりだった。木々が葉を広げる中、いくつものカラフルなテントやトラックがお店を開いている。青空マーケットに来るのはものすごく久しぶりだ、とリンくんが目を輝かせている。
おわぁー、おわぁー!
湿った土と枯れ葉のじゅうたんを踏みしめながら、ぐるぐると店を見て回った。布小物やアクセサリーの店、近所の飲食店のキッチンカー、焼き菓子やジュースの売店。ちょっとしたお祭りの雰囲気に気持ちが高揚する。
シジマル、何かみたいもの、ある?
ン?アレっ!!!
ん?え?
リンくんが驚いた顔で指をさしたその先には、わたしがいた。正しくは、わたしのすごく大きい子、だ。
おわー!ぬいぐるみのお洋服屋さんだぁ!!!ぎゃぁ。シジマルがいるぅ。
そこでは、ジェラトーニを始めとしたキャラクターのぬいぐるみが思い思いの手作りのお洋服を来て店番をしていた。他にもメルちゃんやリカちゃんなど、大小さまざまな著名なドール・ぬいぐるみたち用のサイズに合わせて作られたお洋服がたくさんあった。
ギラギラのオーラを発したリンくんが、小さい子供とママさんの中に混じって、一枚一枚洋服を吟味している。
ふぉおぉぉ。かわいい。かわいいのだが・・・うちのオハナのサイズがないねぇ・・・。
わたしのサイズも、ない?
うーん、リカちゃんのサイズだとさすがに小さいし、ちょっとシジマルっぽいいい感じのデザインがないかなぁ。
後ろ髪をひかれながらも、残念ながらその店先から離れて、一息つくことにした。
気がつくとすっかり青空だった。まだまだ木々は青々とした葉をつけていて、木漏れ日が美しい。カラフルなフラッグが、木の幹と幹の間に装飾されている。まるで、わたしのしっぽのようで、この秋の小さなお祭りを盛り上げてくれていた。
ぐるりと公園を歩き回り、入口に戻ってきた。
何か欲しいもの、見つかった?
ううん、ダイジョブ。
みんなのお洋服は、また今度。
自分のアクセサリーも、またいつか。
さぁ、ゴハン買って、おうちに帰ろう。
秋の束の間のおさんぽ、なんてことのないひととき。でも、木と土と草のにおい、ニンゲンが集まってワイワイ話し声の聞こえるその空間は、なんともいえない懐かしさを覚えた。
わたしの頭ほどのサイズもある、大きなスズメバチがブゥンと羽音を鳴らして、木の枝に貼り付いていった。
なんか、久しぶりだったな、あんな感じ。平和ないちにち。
秋のおさんぽ、大好きだな。
シジマル