秘密の花園へのパスポート
フゥ・・・。
噴水のある池のほとりでたたずむの。絵にかいたような、晩春のひととき。
わたくし、ボブ子よ。
ついに、ついに、ついに!秘密の花園こと、ご近所のバラ園の年間パスポートを入手したの!とっても嬉しくて、さっそくリンとふたりでお散歩よ。
このバラ園には来るのは、3度目。
1度目、2度目は、ともに秋バラの季節だったわ。バラというのは、春と秋、年2回に開花があるのよね、特にこのバラ園では春バラと言われる5月~6月がトップシーズンなの。そんな春バラたちの開花を目前に控えたこの時期なものだから、正直なところ、つぼみはまだ小さく固く閉ざされている。
園の中に入ると、お客さんよりも関係者のほうが圧倒的に多い。
草木の手入れに余念のない庭師、イベントのリハーサルを行う”執事”たち、広報のアームバンドをして写真撮影に勤しむカメラマン・・・。独特なコスチュームを着込んだお人形さんみたいなお姉さんが日傘を差して横に控えている。そんな姿を横目に、わたくしはリンに抱っこされて、最高の青空の下、平日の朝のバラ園を堪能よ。
うふふ。年間パスポートを手に入れたことで、少し気が大きくなってるのかしら。
「この花園は、わたくしのものよ!」
大きく手を広げて、まるでミュージカルの舞台上で歌うように言ってみた。
足元に咲く小さな野草。このバラ園は、バラ以外にもたくさんの草花にあふれている。
咲き始めのすこしせっかちなバラさん。つぼみがとってもとっても愛らしい。そのとげは誰に向けてのもの?
立派な藤棚発見。
とっても華やかないい香りに誘われて近くまで寄ってみたら・・・・・・周りにはブンブン!ブンブン!のハチがいっぱい。しかも身体が大きくてブンブンの音も大きい!
藤棚の近くにはたくさんのベンチがあるのに、どおりで誰も座っていないわけね。(といってもお客さんもほとんどいないのだけれど。)藤の木にはとげはないけれど、ハチたちの針によって、守られているということね。
花園の奥の奥まで歩いて行ってみたら、一匹の猫が紛れ込んでいた。わたくしのことをジィッと見つめて、ノソノソと去っていった。少しずつ、仲良くなりましょうね。
こんなおだやかで美しい、”わたくしの”、秘密の花園。まるで夢心地・・・といいたいところだけれども、ひとつだけ、現実に戻らざるを得ないことがあるのよね。
不定期に頭上をゴォーォォオと唸る音、そして、花園を照らす陽射しをさえぎるほどの大きな影。日頃から誰かに守られて平和に暮らせていることに感謝をしているつもり、だけれど、今日ばかりは複雑な思いで見送る。
興覚めねぇ・・・。
でも仕方がないから、もう一度、ミュージカルごっこをしてみる。
「あぁ!!!わたくしの大切なあの人は、あの戦闘機に乗って、遠くの国へ行ってしまうのかしら・・・!」
大きな声で叫んでみて、このことが、事実でないことを願った。誰にとっても、そんなことがありませんように、と。そして、リンとふたりで顔を見合わせて、笑顔を作った。
眼下のせっかちなバラさんにもう一度視線を落として、少し寂しくなった気持ちをリセットした。
春バラが咲き乱れる頃、また来るわね。
ボブ子
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