もっつの好きなつぼ焼きスープ
カタカタカタカタ・・・。
小刻みに陶器同士がぶつかる音が、近づいてくる。
「お待たせいたしましたー。きのこのつぼ焼きスープでございます。
器が熱いので、取っ手を持ってお召し上がりください。」
・・・・・!!!!!
わっしは、嬉しすぎて声がうまく出ない。
店員さんに軽く会釈をして、了解、の気持ちを伝えた、つもりだが、もしかすると、うつむいて恥ずかしそうにしているクマにしか見えなかったかもしれない。
改めて、向き合う。
きのこのつぼ焼きスープ。
少し大きめの、シンプルな白いコーヒーカップの上に、もっこりとした黄金色に輝くパイ生地のフタがしてある。
決して大げさでない、メインのパスタが来る前の、温かい前菜だ。
わっしが、1年前、アラフォーにして生まれて初めての外食をしたのがこの店で、ひとめでとても気に入ってしまった。
今年も同じ店に、同じ季節にやって来ることができた。店の横には、この小さな街でいちばん大きな川が流れていて、その両側は満開の桜並木が続いている。
最初からこのレストラン、と決めているわけではなかったのだけれども。候補に挙がった別のレストランにリンくんが電話をかけたら定休日でつながらなかったりして、結局ご縁があったというわけだ。
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さぁ。いただきます。
白い壁に囲まれた、まるで雪のかまくらのような個室。わっしはこっそり帆布のバッグから出て、リンくんの隣に着席する。
グラスに満ちた白ワインが、つぼ焼きスープの横で待ちわびている。
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カンパーイ。もっつ、よかったなぁ。
わっし、嬉しい。つぼ焼きスープ、食べるよ。
ザクッ。
大胆にパイのど真ん中をスプーンで突き刺すと、中からミルク色のスープが顔をのぞかせる。
ふわりとバターとミルクとの香りがただよい、それだけで白ワインが飲めそうだ。
アツアツのカップはわっしのモコモコの手ではうまく押さえられないが、なんとかかんとか、フゥフゥしながらスープをひとくち飲んだ。
・・・おいしい。
ふたのパイがスープにひたひたになっていく変化が楽しい。具がたくさん入っているわけではないのだけれど、細かく刻まれたきのこの風味が口いっぱいに広がる。
ねーねー、もっつ。私にもひとくちちょうだい。
おう。はい、アーン。
でっかい茶グマのわっしが、ニンゲンのカタチをしたリンくんにスープをフゥフゥしてやりながらアーンする。なんだかあべこべのような気もするが、本当のことだ。
でも、もしもサーブしてくれる店のお姉さんに見られたらきっと彼女はびっくりして腰を抜かすかもしれないから、あくまでクマのふりをしながら、カップの底が見えるまで、ひとくちひとくちを堪能した。その間に、スープで熱くなった口の中を冷やすために、ゆっくりと、白ワインを一杯楽しんだ。
パタパタパタパタ・・・。
はっ。店員さんがメインのパスタを持ってやって来る気配がする。
ごちそうさま!
わっしはまた帆布のトートバックの中に身を隠して、まるでクマを演じ続けた。
あぁ。やはり、うまいつぼ焼きスープだった。
来年もまた来られるように、またイチニチイチニチ、クマをがんばろうと思う。
もっつ
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