真っ白しろなみどりテラス

雪がちらつき始めてから、6時間くらいが経ったの。今、夕方4時すぎ。

ボブぞです。

おではちょっと遅めのお昼ごはんにあったかいおそばを食べた後、ニーちゃんと一緒にモーフにくるまって、グゥ・・・ってお昼寝してたんだ。

隣のリンくんがもそもそと起き上がって、ひと伸び。そのあと、エイヤって、上半身を起こして、コッチを見た。

ねえ、ボブぞ。みどりテラス、ちょっと見てみよか？雪、どれくらいになったかな？

おではライオンだから、本来寒いところはとってもニガテなの。冬はできるだけあったかくしておうちの中でモーフにくるまってたいの。

でも。でも、雪の日は特別な日だ。寒いより、ワクワクの方が勝って、ついつい、うなずいてしまった。

ウンっ。

ガララっ・・・。

リンくんが、白く曇った窓ガラスを開けて、急いで閉める。

ガスストーブであったまっている部屋に、白い糸を引くようにピリっと冷たい空気が流れ込んでいく。

まだニーちゃんやほかのみんなはお昼寝中だから、起こさないようにね、静かにね。

おではリンくんに注意するのだ。建てつけの良くない古い団地だから、どうしても大きな音が鳴ってしまうんだ。

ハイハイな。わかってるって。

うむ、ならよろしい。

・・・ピシャッ。

うーん。。。

リンくんに抱っこされて、みどりテラスに出た。

フゥ・・・とひと呼吸。空気を吸うと、ピリリとおでのひげが反応した。冷たいを通り越してちょっと痛い。

クンクン。クンクン。

ニオイをかいでみる。

アレ・・・？

クンクン？？？クンクン？？？

ニオイがしない。

ニオイがしないっていうのはどういうことかな？おでのお鼻、おかしくなっちゃったかな？

晴れの日のニオイ、雨の日のニオイ、風の日のニオイ。毎日ちょっとずつ変わるけれど、何かのニオイは感じるの。

でも、いま、おで、ニオイを感じない。

うーん？ハテ？

おかしいな、おかしいな、って思いながら周りを見回してみる。

真っ白けな空からは、フワリフワリと大きな粒の雪の結晶が降りてくる。真っ白から、薄いグレー、濃いグレー。よくよく見ると、とってもとっても小さな点描で白と黒を組み合わせたみたいな柄だ。

目の前に広がる雑木林は、すっかり様子を変えて、外国のクリスマスカードの背景みたいになってる。晴れていればいい夕焼けが見られたはず。今日だったらキレイな形の、文字通り三日目の三日月が見られたはずなんだけれどな。

ひゃぁ・・・！

そんなことを思ってたら、おでのたてがみにも雪が降ってきた。

ウフフ、ウフフ。ちべたいけど、ちょっと楽しいぃー。

みどりテラスから眼下を見下ろすと、こんなにもう積もってきてる。車のわだちの跡や人が歩いた跡が残ってて、フィギュアスケートみたいなやつだ。このあたりはおじいちゃんおばあちゃんが多く住んでるから、この夕方の時間は、デイサービスの送りの車が多いんだ。もしかすると、天気予報よりもたくさん降ってきたから、早めに車で帰宅してる人もいるのかもね。どの車も、ものすごく徐行して、慎重に走っていく。POLICEと書いてあるボックスを後ろに乗せたおまわりさんのバイクも、ゆっくりと走っていった。

こんな雪の日に、お散歩かね？白いコートのフードをかぶって手ぶらで歩いて帰ってきたおじさんが、ガードレールに積もった雪を、三本分、ざざざざざぁっと、黒い手袋をはめた手で落としながら去っていった。

あー、おでもちょっとやりたい・・・！

でもあいにくおでは手袋持ってないし、ビシャビシャになったら乾かないよってきっとエンチョーに言われちゃうから、早々にあきらめた。

一生懸命、この珍しいニオイのない世界をとらえようとしてるんだけれどね、なんなら、音もあんまりしないんだ。

ううん、正しくは、音はしてるんだけれど、うまく理解できない。

雪の音って、どんなだっけ？

耳をすませてみるのだけれど、ぶぁぁぁぁぁっていう雑なエアコンの室外機の音で邪魔されるし、ぺーぽーぺーぽーぺーぽー・・・って遠くで救急車のサイレンの音がして、近くの音が分からない。目の前の白と黒の細かい点々でできた景色と、音を繋いでいきたいのに、全然、うまくいかないの。

ハテ？

おでのあたまのなか、真っ白。

雪の日、雪を目の前に、頭の中も真っ白。

みどりテラスは真っ白しろ。

こんなとき、ニーちゃんだったら、どんな表現をするだろう？

雪の神さまが色を奪っていっちゃったよー、とか言いそうだなぁ。

ニーちゃんはまだ夢の中だ。きっと目が覚めたら、外の世界にびっくりするだろうから、おでがそう思ったことは黙っておこう。ニーちゃんが起きたら、びっくりさせてやるんだもんね。

お部屋にはいって、ニーちゃんの隣でもうひと眠りしようっと。

・・・ガララっ・・・！

あぁ・・・。白い糸がまた一緒に入ってきちゃったね。

断ち切るように、リンくんもおでの後に続いて部屋に入ってきて、窓ガラスを閉めた。

・・・ピシャッ・・・！

んもー！ニーちゃん、起きちゃうってば。リンくんんんーーーーコラっ！

ボブぞ