フクはすずちゃんといっしょにおさんぽしたいの

「すずちゃん、すずちゃん!フクね、今日、すずちゃんといっしょにおさんぽしたいのー!」
アザラシのフクこと鰒太郎(ふくたろう)です。
曇天小雨だった昨日とはうってかわって、今朝は晴天!
窓辺には強い日差しが差し込んでるの。お日さまが低くなってきた証拠だね、フクのおでこをサンサンと照らしてるよ。
サン(注: 太陽のSun)、だけにね!フハッ!
すずちゃん、昨日はもっつとふたりで(厳密にはリンくんに連れられて)、お出かけだったの。オトモダチに会いに行ってきたんだって。
朝から夕方までイチニチじゅう、おうちですずちゃんの留守を守っている間、フク、なんだかね、とってもとってもさみしいキモチになっちゃったんだ。
なんでかな?
なんでだろ?
「フクってば、すずがひとりで鳥さん見に出かける分には、そこまでさみしがらないのにね?昨日は、もっつと一緒だったからかな?」
リンくんにそう言われて、ハッと気がついた。
イヤン。もっつに、嫉妬してるんだ。
フク、そんな嫌な感情を持つようなヤツじゃないもん。ホントはもっとココロの広い寛大なアザラシだもん。
知ってるもん、すずちゃんはみんなのすずちゃんであって、フクだけのすずちゃんじゃないって。
でも…でも…。
あぁ、リンくんに見透かされた感じがした。
すずちゃんはおうちのなかでもおうちの外でも人気ものだ。
いつもカワイイカワイイ!ってほめてもらって、すずちゃんもサービス精神旺盛だから、キャッキャキャッキャって無邪気にはしゃいでさ。
フクと一緒にいるときだって、いつもそうだよ。フクにも、フク以外のオハナ(家族)にも、それからオトモダチたちにも、いつだって分け隔てなく、仲良くしてくれる。
すずちゃんってば、すごくいいウサギさんなんだ。
「んっと、えっと・・・!とにかくぅ、今日はフク、すずちゃんとふたりでお出かけしたいんですぅ!ね?すずちゃん、いいでしょぉ?」
昨日のおでまめ(お出かけ)の疲れからか珍しくお寝坊さんで、まだ寝ぼけまなこをこすっているすずちゃんに聞いてみる。
「え?いいよー!フク、んじゃ、おさんぽ、いこっか?」
「やったー!」
おさんぽ!おさんぽ!
すずちゃんとおさんぽ!
わーい!
フゥ・・・。
ごまかせたかな?フクの嫌なとこ、すずちゃんに見られずに済んだかな?
「すずもねー、今日はフクとぴっとしいっしょに過ごしたいキモチだったんだぁ」
すずちゃんはそう言うと、フクの隣にぴとっとくっついてきた。

すずちゃんは、すごいな。
自分がしたいことをしたいままに実現するし、逆に、自分が嫌だって思うことをハッキリと嫌って言えちゃうまっすぐさもすごいんだ。
フク、すずちゃんのそういうところ、とっても好きなの。
「ねぇ、フクぅ、ドコ行くぅ?」
「えっとねぇ・・・、すずちゃんと同じところ!」
「アハッ!フク、あたりまえだねぇ!いっしょにお出かけするんだもんねー!」
そう、行き先はドコだっていいの。
とにかく、こぉんなお天気のいい日に、すずちゃんといっしょにお外に出かけられたらそれで大満足。
「リンくーん!決めて?」
リンくんにそうお願いすると、リンくんは、あいよーと軽く返事をして、すずちゃんとフクのことをリュックにムギュと押し込めた。
「ひゃぁ!ミステリーツアーだね!ドキドキ・・・。」
キャッキャッ!とすずちゃんと入ったリュックのなかでおしゃべりをする。ゆっさゆっさとリンくんの歩調に合わせて揺れて、その度にすずちゃんの長いお耳がフクのおなかに当たるの。

「とうちゃーく!」
ようやくリュックの外に出してもらえたのは、おうちを出てから1時間以上も後のことだった。
「え!わ!ドコ?」
「葛西臨海公園!」
もともとリンくんは、ご近所の川沿いをぐるっと歩きに行くくらいの予定だったらしいのだけどね。
横にいたケンイツエンチョーが、リンくんに助言をしてくれたの。
「フクがお出かけしたがってるんだろぉ?葛西とかどーよ?葛西の水族館でアザラシさんでも見てきたら?」
「あれ?葛西ってアザラシいるの?」
「いやー知らない。」
「知らないんかい!アハッ!」
そんあわけで、とりあえず行き先は葛西臨海公園駅に決定となったそうだ。
オシゴトに向かうエンチョーと途中の乗り換え駅でお別れすると、リンくんはすずちゃんとフクを連れて京葉線に乗り込んだ。
ポチポチ…
駅ロータリーの噴水の前でスマホをいじるリンくんが、ひとこと。
「わぁ…今日、スイヨービでしょ?水族館、定休日だぁ!」
ふふ。そんなこと気にしないよ。フクはすずちゃんといっしょにいるだけでうれしいんだもの。
ちなみに葛西臨海水族園にはアザラシはいないどころか、水曜日は定休日だったし、ホント、行き当たりばったりのミステリーツアー。
それでも、フク、すずちゃんと一緒におさんぽなの。
とってもとってもうれしいの!

もう夢みたいに楽しいおさんぽだった!
東京湾を一望できるクリスタルビューっていう建物の上から海を眺めたり。



ディズニーランドを眺めることのできる干潟の岸壁ギリギリでドキドキしながら記念写真を撮ったり。
(半裸で日光浴をしているオジサマに見つかっちゃって、フクたち、ジィっと見られて、それもドキドキしちゃった・・・!)


定休日の水族園にあるドームをお掃除している様子を遠くから眺めたり。
(高層ビルの窓拭きみたいにハーネスで命綱をつけた何人もの作業員さんが同時にお掃除していたよ!)


すずちゃんが公園内のバードサンクチュアリ(鳥類園)でお得意のバードウォッチングのことを教えてくれたり。





「ホラ、フク、これ、のぞいてごらん?鳥さん、おっきく見えるんだよ?」
すずちゃんにそう言われて、おそるおそるまぁるいレンズをふたつ、それぞれのぞいてみたら、、、あ!飛んでいっちゃった・・・!




それからそれから、満開のコスモス畑ではしゃいだりもした。
「こんな遅咲きのコスモス、珍しぃねぇ。今年、佐倉のふるさと広場行かなかったからコスモス畑、うれしいね。」
リンくんも思いがけない一面のコスモスとの出会いに喜んでたの。
「くぅー!カメラ持ってくりゃよかった・・・、いや、ミステリーツアーだから仕方ないか。」



そう、行き当たりばったりの葛西臨海公園。綿密に下調べして計画していくお出かけももちろん楽しいのだけれど、こうやってフラッと無計画におさんぽするのもいいもんだね。
「すずちゃん、すずちゃん、あのね、フクね・・・。」
「すず、たのしーい!フクといっしょにおさんぽ、楽しいの!」
きゃぁ!フクが言い終える前に、すずちゃんに言われちゃった!
「フクも!フクも!フクもね、すずちゃんといっしょにおさんぽ、楽しいの!」

そうして、最後は公園内のベンチでおにぎりタイム。
おうちから持ってきたリンくんお手製のおにぎりをモングモングするの。
目の前には青い空と青い海。船が行き交い、広い空には飛行機が飛んでゆく。
「アレ?もしかして、あの飛行機って昨日羽田空港で見てたかも?」
「うん、多分、アッチ、羽田空港方面だよ。だって、羽田から葛西臨海公園が見えるって言ってたもん。」
リンくんとすずちゃんがフクの知らない話をする。
「フクも・・・フクも・・・フクも昨日行きたかったな・・・?」
「うん、そうだよね。頑張ってお留守番してくれて、どうもありがとうね。昨日はもっつの日だったんだ。フクまで連れていけなくって、ホント、ゴメン。」
リンくんが申し訳なさそうな表情で、フクのことをギュゥっと抱きしめてくれた。
「フク、すずからも、ゴメンね。さみしい思いさせたよね?あのね、すず、昨日、オトモダチに会って、もっつの大活躍も見届けて、とっても楽しかったよ。」
「うん、そうだよね。すずちゃんはもっつのお付き合いだったんだもんね?」
「フク。あのね、でもね。今日もとっても楽しいの。いま、すず、とっても楽しいの。フクといっしょにおさんぽできて、とってもうれしいの。」
・・・!
すずちゃんはそう言うと、フクのほうをジィーっと見つめて、それから、フクの鼻先にちぅちぅ、とキスをしてくれた。
もう、カッコつけたりしなくて、いいや。
「すずちゃぁーん!昨日、フク、なんだかすごくさみしかったんだ。ちょっと、いじけちゃってゴメンなさい。」
「何言ってるのさぁフク。なんで謝るの。昨日、すずがおうちに帰ったとき、真っ先におかえりー!って大きな声でお迎えしてくれたでしょ?すず、とってもうれしかったんだぁー。あ、フクだ!フクのいいニオイがする!ってね。とっても安心したの。」
そうだったっけ?・・・そっか。うん、そっかぁ・・・・!
すずちゃんも、フクのこと気にかけてくれてたんだね。
フクも、すずちゃんのこと全力でおかえりなさいしてたみたい。
すずちゃんが安心したって言ってくれたことで、フクもホッと気が緩んだの。
「へへーい!んじゃぁ、わだかまり?も解けたところでっと、乾杯しない?」
フクがすずちゃんと話し込んでいた間に、リンくんは公園内の売店でお買い物をしてきたらしい。


「そのシュワシュワした黄金色の飲みもの、なァに?」
「へっへっへっ・・・ハイボぉール!」
「おにぎりにハイボール!海を見ながらハイボール!いいねー!」
すずちゃんがキャァキャァ喜んでいる。すずちゃんってね、こう見えて実はオトナウサギさんなんだ。フクよりもずぅっとおニーさんなんだ。
「んじゃっカンパーイ!」

ゴッキュゴッキュ!
嬉しそうに飲むすずちゃん。
「フクもどーぞ?」
「うん!フクも、フクもー!・・・ペロ・・・ペロペロ・・・うぅ・・・」
フクにはまだちょっと早いみたい。すずちゃんみたいにカッコよく飲めるようになる日が来るかなぁ?

「あ、そうそう。リンくん?すずとフクとの間にはわだかまりなんてこれっぽぉっちもないんだから!ねー?フク?」
すずちゃんがリンくんに言い返してくれたの。
フク、すずちゃんがそうやってハッキリ言ってくれるの、とっても好きなの。
「フク、すずちゃんのこと大好きなんだぁ!」
「アハッ!知ってるぅー!フクがすずのこと大好きなの知ってるよ。すずもフクのこと、だぁぁぁぁぁぁぁいすき!」
西へと傾き始めた日差しが、すずちゃんとフクとのことをまぁるく包んでくれている気がした。ココロの奥底がポカポカとあたたまり、うっとりとここちよいの。
海風さえおだやかで、だぁれも邪魔するひとはいないの。
フク、とってもシアワセだな。
よかったな。

ギュゥーギュッギュッって抱き合って。
「すずちゃん、フクといっしょね。」
「フク、すずといっしょにいようね。」
「だって、すずとフクはコンビー!だもんね?」
「ねーっ!」

まいにち、まいにち、確かめ合うんだ。恥ずかしがらずに、カッコつけずに。
さみしいだなんていうキモチはココへ置いていってしまおう。
駅前のロータリーまで戻ってきたそのとき、リンくんの電話が鳴った。
「ケンイツエンチョーからだぁ。・・・もしもし?」
「フクー!ゴメンなぁ!今日、水族園休みだったんだってな?すまーん!」
「ふふ。エンチョー!フクね、今日ね、超ぉぉぉぉぉ楽しかったよ!すずちゃんとね、おさんぽしたの。鳥さんのこと教えてもらって、いっぱいおしゃべりして、いっしょにおにぎりほおばったの。あ、ディズニーランドも見えたし、飛行機も船も、それからね、コスモスも見たの。水族園はまた今度さ、エンチョーもいっしょに行けるときに連れてってね。」
そう言うと、エンチョーはホッとした声で、「早くオシゴト切り上げておみやげも買ったから、家で一緒にメシ食おっぜー!」と言って電話を切った。
さぁ、おうちへ帰ろう。
あたたかな、海辺のひだまりみたいなココロだけを、胸の奥にだいじだいじにして。
フク(鰒太郎)

葛西臨海公園 公式サイト
https://www.tokyo-park.or.jp/park/kasairinkai/index.html

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