ふわふわの「クバ」

エンチョーさん、
ふわふわなの
ふわふわのくまなのはじめまして
すみません きゅうにきてしまいましたきょうから おじゃましますなの
ふわふわなのよろしくおねがいしますなの
ふわふわ ふわふわちゃいろや しろの くまさんのみなさんが かんげいしてくれてるの
ふわふわ ふわふわあ なまえはまだないの
ふわふわ ふわふわふわふわのくま より
こんにちわーに、おれ、ライオンのボブお。
ふわふわのくまさんがやってきたその夜、ケンイツエンチョーはおシゴトで出かけていて帰りが遅く、おれらが眠りにつく頃はまだおうちに帰っていなかった。
この家のオハナ(ぬいぐるみ家族)のリーダーはおれだけれど、この家の”エンチョー”、つまり「オハナ学園」(諸説あり: 「オハナ動物園」という説も有力)の園長先生は、ニンゲンのケンイツだ。
だから、新入りがやってくるとき、ケンイツエンチョーとのご対面を済ませないと、おれだって落ち着かないのだ。
だから、おれは新入りのふわふわのくまさんに言ったんだ。
「ケンイツにさー、手紙書いてくんね?メールで送っとくから。」
「てがみ ふわふわ?」
「そう、手紙。」
そういうとふわふわのくまさんは口角をぐいぐいぐいっと上げて、コクン、と頷いた。まだコトバはあんまり話せないみたいだけれど、コッチが言ってることはわかるみたいだ。
ふわふわのくまさんは机に向かうと、するするーっと五十音を並べて、あっという間に文章を作り上げたのだった。ひらがなって、パズルみたいだった。
おれはその文章をゴクンと飲み込んで、わぅぅぅ・・・っとひと吠えすると、ぴぴぴぴぴ・・・とケンイツエンチョーのガラケーにメールを送った。
「あれ、ボブお、ケンイツくんにメールしてくれたんだ?」
リンくんは寝室に行く前におれにそう話しかけた。
「もうとっくに送ったよ。おやすみ。おれ、今日、居間のソファでみんなで寝るから。よろしく。」
「え、そうなの?うわ、今日寝室、誰も来てくれないの?」
「そうでーす。だって、新入りの初日だもん。ケンイツエンチョーが帰ってきたときに、おれが紹介しなくちゃだろ?」
「うぅ・・・わかった。んじゃ、おやすみ。」
リンくんがオハナゼロで独りで寝るなんて、去年入院していたとき以来だろうな。
おれはキャッキャとまだはしゃいでいるクマーず(我が家の最大勢力のクマたちが、ついに6人にまで増えたのだ)を横目に、一緒にソファに横たわってモーフを鼻先まで引き上げた。

そうして迎えた翌朝。
「おはーに。」
リンくんがのそのそと居間にやってくると、ケンイツエンチョーはすでに起きていた。
「ぐっすり寝ちゃって帰ってきたのぜーんぜん気が付かなかったよ。」
フハッ!リンくん、おれらが添い寝してなくたって、眠れるんじゃん。っていうとブーって言いそうだからおれは黙っていた。
「あ。そうそう。ふわふわのくまさん、見た?」
「うん、見た見た。メールもくれてたもんなぁ、くまさん。」
そこでおれはふわふわのくまさんを連れて、エンチョーのもとへ駆け寄った。

「エンチョー、おはーに。くまさん、名前ないの。」
「くまさんは男の子?女の子?」
「あのね、ふわふわのくまさんは名前も性別も国籍もないんだよ。」
リンくんが横から説明する。
「ふーん。でもまぁ、うちに来たからには呼び名は必要でしょ?」
おれが食い下がる。ケンイツエンチョーはいつだっておれらオハナの名付け親なのだから。このくまさんだけ名前がないっていうわけにはいかない。
「・・・カバっぽい顔してんなぁ?」
「ん?」
「ンー・・・。んで、くまなの?」
「そうそう。くま。ふわふわのくま、っていう絵本のね、くまさんなの!」
「じゃぁ・・・クバ。」
「くま?」
「ううん、クバ。」
「くば?」
「カバっぽいくまだから、クバ。」
「おぉ!クバ!」
おぉぉぉぉ!
というわけで、我が家にやってきたふわふわのくまさんは「クバ」というお名前になりました。名付けの由来はかなり単純だけど、音がいいね。
「ふわふわのくまさん、じゃぁ、今日から、きみは、クバね。」
「ふわふわ?」
「そう、ふわふわのクバ。アハッ!よろしくな!」
「よろしくなの ふわふわ」

改めまして、オトモダチのみなさんへもご挨拶。
我がボブ家にやってきてくれたふわふわのくまさん、その名は「クバ」に決まりました。
きっとふわふわの優しい時間をおれら家族にもたらしてくれると思います。
仲良くしてくださいな。どうぞよろしくねー。
ボブお
「わがやに ふわふわのくまさんがやってきたの ふわふわなの」
https://bobingreen.com/2025/10/14/16770/