晩夏の風がたてがみをなでてゆく
しゅいしゅいー
じーじりじりじりじり
ぴゅるりるりっ
んごーーーーーー
ぶぅいーーーーーーん
ぐぅぉーーーーーーん
どぅるいーーーーーーん
「ひっさしぶりだなぁー。」
「ひっさしぶりだねぇ。」
勢力を弱めたアブラゼミの声に取って代わって、クマゼミがまじる。セミに負けじとムクドリがノドを枯らす。
帰宅を急ぐクルマのタイヤの音、原付きバイクのエンジン音。頭上にはジェット機が飛び交う。
あぁ、そう言ってる間にもいろんな音が増えるよ。
ばばばばばばばばば
ふぁわぁぁぁぁぁぁんっ
エアコンの室外機はまだまだフル稼働。
それからあれだ、電気自動車のあの音だけは、なぜかおれのココロをさかなでするんだよな。
ライオンのボブおです。
おれ、いま、みどりテラスにいる。
みどりテラスでね、久しぶりにキャンプいすを出して座ってるんだ。ここ最近はあっつくておひなたぼっこもしてなかったからね。
そして、隣ではリンくんがパソコンを持ち出してカタカタやってる。
「ボブお、夏の終わりってテーマでネタちょうだいよ。」
「はー、なんだそれ。それくらい、自分で考えてよ。」
とぅーんとぅんとぅーんとぅとぅん・・・
ごじに・・・なりました・・・こどもたちは・・・かえりましょう・・・
「うん。この感じ。」
「んだね。」
おれらはコトバ少なに耳を澄ます。聞き慣れた、夕方の、町のチャイムだ。
なんてことはなし。リンくんがたいしたわけでもないコトバをカタカタとつむぎ、おれがそれを横目に眺めつつ、外の空気を感じる。季節を感じる。
今日は8月28日、8月の終わり。夏の終わりと言い換えても差し支えなかろう。
晩夏?うん、晩夏でも差し支えないだろうか。以前おれは、夏の神さまと秋の神さまの引き継ぎと言ったような記憶があるが、秋の神さまはもう準備運動を始めているのだろうか。
(読み返してみたら3年前の東京パラリンピックの最中だったらしい。そして奇しくも今日はパリパラリンピックの開会式の日だ。コチラ → 「夏の神さまの引継ぎ」)
おれの右の頬を、そして、たてがみを、なでていく風は、すっかり真夏のそれとは違うもの。
さすがにひんやりとはいわない、ひんやりはしないけれど、熱風でもない。風よ吹いていてくれてありがとう、と思える、ココロを穏やかにしていられる心地の良い温度だ。
おれは夏という季節が好きだから、こんな風ひとつで夏をしめくくるにはまだまだ早すぎるけれど、それでも、夕方5時のみどりテラスで感じる一抹の寂しさは、季節の移ろいの産物であると認めざるをえないのだ。
「台風10号、ダイジョブかねぇ。」
リンくんがつぶやく。
「あっ。」
晩夏の風だと思ったそれは、台風の風だったのか。
と思った途端。
遠くから爆音が鳴り響いてきた。
ばるばるばるばるばるばるばる!
バイクやクルマじゃない速度で近づいてくる。やはりこのみどりテラス、侮れない。
プロペラさんがやってきたのだ。迷彩色で塗られた、あの、プロペラさんだ。
ばるばるばるばるばるばるばる!
プロペラさんは、砂埃を巻き起こして、風情のひとかけらも残さず、おれの影を切り裂いていったのだった。
「んー。これだから、みどりテラスはやめられないねぇ!」
リンくんの手はいまだにパソコンの前から離れず、カタカタと不規則な音楽を鳴らしていたのだった。
とりとめもなさすぎてまとまらないけど、おれの、夏の終わりの日記。
ボブお