命名 パブロヲ ― 「コート・ダジュール」に憧れて

「はいはいはーい!ではみなさん、我がボブ家に新たに仲間入りしたハシビロコウさんのお名前ですが、満場一致で決定いたしましたので発表します。」

ドンドコドンドコドコドコドコドコドコドコドコドンッ!!!

「”パブロヲ”に、決定ーーー!!!」

“新入りのハシビロコウさん、”パブロヲ”と命名!”

こんにちわーに。
ライオンのボブおです。 

今日は重要なオハナ会議(家族会議)が開かれているよ。
いつもだったら、おれボブおが議長を務めるのだけれど、今日はね、実はウサギのすずが大役を担っているんだ。

今日の議題は、先週末に遊びに行った、チーバは千葉市動物公園でお迎えしてきたハシビロコウさんのお名前を決定するというもの。「せっかくすずがお気に入りになったハシビロコウさんだから、すずが責任をもってみんなの総意をまとめてみるかい?」とおれがお願いしたら、「すずにまかせて!」と意気揚々と取り組んでくれたのだった。

おれは控えめに一歩ひいて、みんなの話し合いを見守る。おれが引くと、いつもは出たがりの弟のボブぞまでおれの後ろに下がって、オニーさんを気取っている。まぁ妹のボブこはいつも通りのクールさだけれど。

“オハナ会議(家族会議)中”
“ウサギのすずの議長をまかせて、おれは後ろから一歩引いて見守るの”
“ライオン三兄弟はそぉっと後ろから見てるよ”
“なんなら、もっつもソファからそぉっと見守る”

ハシビロコウさんの命名会議、といってもね、実は、お名前の9割がたは、お迎えした1時間後には決まっていたんだ。

それは、動物園を出たあと、チーバ駅の近くで昼飲みしようと入ったお店でのこと。
そこはケンイツエンチョーがネットで調べて飛び込みで入ったカフェレストランで、ガレットのランチを出してくれるというお店だった。ガレットというのはフランス料理のひとつで、そば粉を使ったお食事クレープのことだ。
(動物園でのお話はコチラ「三度目の正直のハシビロコウさん」

(「こちらのお席、どうぞ。」)

店員さんに通されたのはいちばん奥の半個室のようなスペースで、2組が入れる作りになっていた。すでに食事を終えてコーヒータイムを楽しんでいた先客が帰ったあとに、我々はガレット2種類、おつまみ、それからワインの注文を済ませた。

白ワインのボトルが到着して、我々はさっそくカンパイをすることにした。

「ハシビロコウさんとさっそく初めての外食だねぇ!さぁさぁ一緒に飲もう?」

すずがうれしそうに、ハシビロコウさんをトートバッグの外に呼び出すと、ハシビロコウさんはピョコっと出てきた。

“ハシビロコウさん、さっそく初めての外食だねぇ!さぁ一緒に飲もう!”

カンパーイ!

“カンパーイっ!”

ワイングラスをかかげて、ひとくちグビリとやっている間に、ハシビロコウさんは壁の方をジィーっと見ていた。

「どした?・・・っていってもまだコトバわからないかな?」

ジィーっ

ハシビロコウさんがそのまぁるい凛々しいお目めで見つめる先には、1枚の絵があった。このカフェレストランの店内装飾のひとつである、壁のポスターだ。

「気になるの?」

ジィーっ

おれが質問すると、ハシビロコウさんはこちらを振り返って、ポスターの前でニッと笑った。

“ポスターの前でニッと笑う、ハシビロコウさん”

壁のポスターをよぉく見直してみると、キャンバスの上部3分の2には、ブルーを貴重とした海の景色と何羽もの鳥さんの絵が描かれていて、下部の広めの余白には、「Côte d’Azur」と書いてあるのが読めた。

「コー・・・?」

ケンイツエンチョーが読もうと首をかしげていると、リンくんが口をはさんだ。

「あ、このサイン、ピカソじゃない?」

右下の余白にスルスルッとしなやかな文字で書かれたそれは、さほど美術には明るくないライオンのおれでも、見たことのあるものだった。

「あー!すず、知ってるよ!ピカソさんだ!すずね、箱根チョーコクの森美術館行ったもん!ピカソ館でこのサイン見たから知ってる!」

リンくんがその場で調べてみると、これは「コート・ダジュール」という作品で、ご名答、パブロ・ピカソの絵であることがわかった。

「おー!おれ、この絵好きだなぁ。鳥さんいっぱいじゃん?」

ケンイツエンチョーは、難解なキュビズムで有名なピカソ作品とは違う、この穏やかで明るい海と鳥たちが描かれた生命感あふれる鮮やかな1枚を気に入ったらしかった。

すると、さっきまでポスターを眺めていたハシビロコウさんは、ケンイツエンチョーのほうを振り返って見て、ウンウン、とアタマを上下に揺らした。

「お?もしかして、オマエさんもこの絵が気に入ったの?」

(ウンウン)

「そぉかー!じゃぁ、オマエさん、名前はパブロでどう?」

(ウンウン)

「あっ。いいね!ピカソじゃないところがいいね。」

アタマを揺らすハシビロコウさんに合わせて、リンくんもガクガクとアタマを激しくタテに振って同意を示した。

「ちょっとかわいらしくしたいな・・・、あ、パブローとか?」

「あいやー、カタカナでしかも最後を伸ばす棒の”パブロー”じゃ、サブローみたいじゃん?」

「アハッ!サブローよりイチローの方が有名だしっ。あ、それこそイチローの本名の漢字のさ、朗らかな方の朗はどう?ホラ、佐々木ローキくんの朗でもあるし。」

「普通の郎よりはいいね。ただ・・・、ハシビロコウさんに、野球カンケーあるかねぇ?」

うーん、うーん、うーん
うーん、うーん、うーん

(「お待たせいたしましたぁ。」)

ワインを片手にみんなでうなりながら悩んでいると、焼きたてのガレットが運ばれてきた。動物園で遊び疲れてハラペコのおれたちの意識は、あっという間に目の前のごちそうに移った。ガレットなんて食べた記憶があんまり多くないけれど、おヤサイももりもりに盛られていて、とっても食べごたえのあるすばらしいお料理だったんだ。

「コート・ダジュール」の絵を挟んでニンゲンたちと一緒にワインを白も赤もとぐびぐびやらかして楽しくおいしく過ごし、その日はそれ以上、議論に進展はなかった。

“おヤサイもりもりのガレット!”
“食いしん坊フクも大満足だよ!”
“エヘヘ、赤ワインも飲んじゃった”

つまり。
パブロ・ピカソからパブロをいただくことは決まり。さらに語尾をちょっと伸ばすとして、パブローにするか、パブ朗にするか、はたまた別の案か・・・?というところで、結論は持ち越しとなったのだった。

「”ロー”も悩むけれど、”パブ”、はカタカナ?ひらがな?ドッチ?」

「うんにゃー、どうしよ。書いてみるか。」

  • パブロー
  • パブ朗
  • ぱぶ朗
  • ぱぶろー
  • ぱぶろう
  • パブろう
  • パブろー
  • パブロオ
  • ぱぶロオ

・・・

うーんうーん
うーんうーん

「書いてみても、どれもコレっ!ていうピンと来ないというか。」

リンくんが書き出した候補を目の前に顔をしかめていると、ケンイツエンチョーがひとこと。

「おれ、いいの、思いついた。」

「何?何?さすが、みんなの名付け親、エンチョー。」

「名バイプレイヤーのぉ、田口トモロヲさんにあやかってさ、・・・パブロヲでどぉ?」

「うわっ!それいい!それカッコいい!あー、阿部サダヲでもあるね。」

「うぉ、主役級俳優も来たなぁ。」

「じゃ、それで。決定にしよう!」

「みんなー、ケンイツエンチョーの案で行こうよ。いいかな?」

「はいはいはーい!すずが議長でオハナ会議して、最終決議取るんだもん!議案、ハシビロコウさんのお名前について。”パブロヲ”で賛成のひとー?」

はーいっはーいっはーいっ
はーいっはーいっはーいっ
はーいっはーいっはーいっ
・・・

オハナ(家族)のみんなが一斉に手を上げて賛同をしてくれた。
そして、肝心の本人はというと、みんなに取り囲まれて、ジィーっとつぶらな目をパチクリとさせていたのだった。

「・・・では、念のため。”パブロヲ”に反対のひとー?」

・・・(シーン)

「満場一致で、ハシビロコウさんのお名前は、”パブロヲ”に決定でぇす!!!」

やったーぁやったぁー!

“オハナ全員満場一致で、お名前が決まったよ!”

チーバのガレット屋さんで見たパブロ・ピカソ作「コート・ダジュール」のポスターをきっかけに、我が家に新たに仲間入りした、ハシビロコウさんは、めでたく”パブロヲ”と命名されました。 

「コート・ダジュール」に描かれている海と鳥の楽園に憧れるハシビロコウのパブロヲは、これからきっとオハナ学園のゲージュツ学部の一員として活躍してくれることと思います。

オトモダチのみなさん、これから、どうぞよろしくね!

「あ。そうそう。ボブお、知ってた?パブロ・ピカソって、本当はパブロ・ホニャララホニャララホニャララ・・・ピカソらしいよ。ミドルネームとかクリスチャンネームがいっぱいいっぱいあるんだよ。」

・・・リンくーん、せっかくパブロヲに決まったところで、いまさら、その豆知識は不要だからな。

フハッ!

ボブお

ランチにおじゃましたお店はコチラです
お昼からガレットとボトルワインもいただけちゃうステキなお店でした。また行きたい!
↓↓↓
小皿フレンチとガレット ブラッスリーzizi (千葉県千葉市)
公式Instagram: @zizi_chiba

「三度目の正直のハシビロコウさん」
https://bobingreen.com/2024/02/19/8234/

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Rin(リン)

ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。 ライオンのボブ家と愉快な仲間たち、そしてニンゲンのケンイツ園長と一緒に、みどりキャンプ場で暮らしています。 ボブ家の日常を、彼らの視点でつづっていきます。

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