無免許医師みどりジャック、再び
「ぐへぇ。」
「ゴロオ、お願いだから、じっとしてて。」
「アイテテテテ。」
朝から針仕事をしていたリンくん。
ケンイツエンチョーの、一張羅のネクタイの裏地がほつれてきちゃったんだって。それで、チクチクチクチク、繕い物をしていたんだ。
「でーきた。」
ネクタイの修理が終わったかと思いきや、おれの頭をわしづかみにしてきてさ。リンくんってば、こう言いのけた。
その手には、白い糸の通った針。
「さあ。次はゴロオの番だよ。」
ヒィーーーーーッ!
シロクマのゴロオです。
おれは手術は2度目なんだ。
1度目は、ずいぶんと昔のこと、そうだ、おれがまだこのボブ家に来たばかりの頃だ。いわゆる植毛手術ってやつだな。ライオンのボブ家のみんなから、生え変わりの抜け毛をちょいとばかし分けてもらってね。だから、おれは、赤や黄色や緑や青のモヒカン頭のシロクマなんだ。
そして。急に今日2度目の手術台に上がることになった。
なんの予期もしていなかったのにさ。
「ゴロオの足、直してあげる。イヒヒヒヒ。」
リンくん、もともとは大の苦手だった縫い物が、少しだけ楽しくなったんだって。それで、アッチコッチ、直すものを探し回ってたんだ。
「お。。。おれかよぉ・・・。ココロの準備が・・・。」
オォノォ!
あっという間に抱きかかえられたかと思ったら、右足のつけね、ぱっくりと割れて、”なかみ”(綿じゃないよ、白い綿なんかじゃないさ、白い綿なんかじゃぁあないさぁー!)が見えちゃってるところの処置が始まった。
「はぁーいゴロオ。ちょっとだけチクっとしますよぉ。はい、チクゥー。」
南東向きの食卓の窓からは、午前中の白い光が心地よく射し込んでいる。テレビや映画で見るような、ピカッっとした丸いライトじゃないのだけが救いだ。
「チクゥじゃないよチクゥじゃ!ノー麻酔ですか?(あっイッターーーー!!!)」
「そうだよ、ゴロオはおニーさんでしょ。こないだのすずの時はキューリの麻酔かけたけどさ、ゴロオに何の麻酔かけたらいいか、わからないし。アッ、ゴロオはハンバーグが好きだったかな?」
「むぅ。・・・ハンバーグの香りじゃ麻酔にならんわい。(アイタタタタ。。。)」
おれは、ひと針ひと針の痛みに耐えながら、突然現れた無免許医師みどりジャックに毒づいた。
「おい。ちゃんと直るんだろうね?」
「もちろんですよ。さ、あと玉止めしますよ。」
「ぎゃんっ!引っ張らないでぇー!」
「さ。終わり。」
チョキン、と最後ハサミで糸が切られる音が聞こえて、おれはリンくんの手から開放された。
「うぅー。うぅー。おれ、頑張った!リンくんの、ばーかっ!痛かったぞ!」
おれがあまりに大きな声で騒いだものだから、何事かとみんなが心配してくれた。
「あれぇ、ゴロオ。なんだか若返った感じする?」
「アーッ!ゴロオも手術したのぉ?すずもこないだしたよぉ!元気になって良かったねー!」
「ゴロオ、よく頑張ったな!やるじゃん。」
「ゴロオ、フクと同じ色だあねぇー。あそぼぉ!」
なんだかみんながやさしく声をかけてくれて、ホッとしちゃった。
今日は、みんなに甘えようっと。
リンくんとは、3日間、口聞いてやらないもんね。
フンッ!
ゴロオ