豊受さんと雪うさぎ
ボブ家の年末恒例となりつつある、お伊勢参り。
オシゴトを終えたエンチョーと名古屋駅で合流して、大好きな天むすを買って近鉄特急に乗り込む。
伊勢市駅に到着したのは、15時過ぎのことだった。
リンくんもエンチョーも大きな荷物をコインロッカーに預けてから、いよいよ参道へ。
今日は、外宮こと豊受(トヨウケ)さんにお参りするの。
ボブおです。おれはオハナ(家族)のリーダーで、僭越ながら、我が家では神さまのおつかいの役目を果たしている。お参りするときに、オハナの先頭に立って、パンパンッってするお役目だ。
もう何度目かな、数え切れないくらいお伊勢参りには来ているけれど、今回はちょっとだけキンチョーしてるの。なんでかっていうとね、うちの新入りで初のお伊勢参りに来た、ウサギのすず(鈴之助)とアザラシのフク(鰒太郎)を神さまに紹介するべく、彼らにきちんとお参りの仕方を教えるのだ。
「いーい?おれのやり方、見ててよ。」
ペコッペコッ・・・パンッ・・・パンッ・・・
ジィー・・・
ペコッ
「すず、フク、わかった?」
「うんっ!かんたーん!すず、できるよーっ!」
「フクもーっ!かんたーん!かんたーん!」
「よぉし、じゃあぁ一回、練習な。せーのっ」
ペコッペコッ・・・ぱふ。。。ぼふ。。。
ジィー・・・???
ペコッ
ぱふ。。。
ぽふ。。。
・・・?
「あぁれー?じょうずに手の音が、鳴らないよ。どぉしてかな?」
「フハッ!それはしかたないかもなぁー。すずも、フクも、お手て、ちっちゃいものなぁ!大事なのは、気持ちだよ。」
「キモチ?」
「そう。キモチ。神さま、私たちをお見守りくださりありがとうございます、ってね。キモチを伝えるんだよ。」
「あーいっ!わかったー!」
年の瀬、しかも平日の夕暮れ時とあって、外宮参道は人はまばらだ。
一大観光地でもある伊勢といえども、ここでは、内宮付近のおはらい町やおかげ横丁のような華やかさや商売っ気はあまり感じられない。かの有名な赤福や伊勢うどん屋、海鮮料理を出す店や食べ歩きのできる甘味処などあるにはあるのだけれど、こざっぱりとしていて、派手さはない。参道の途中には、洋品店、いわゆるファッションブティックのような店が数軒あって、リンくんは毎回ショーウィンドウを横目に、あーあのコートかわいいーだのスカーフの色がいいーだの、コメントを残していく。今回は寄らなかったけれど、リンくんが特にお気に入りの雑貨兼洋服店があって、数年前に来たときには、お参りの帰りがけに店頭のマネキンが着ていたワンピースを試着して買って帰ったくらいだ。
「あー。リンくんがワンピース買ってた店、まだやってるねぇ。コロナ禍、頑張って生き残ったんだね!感慨深い。」
「ボブお、よく覚えてるじゃない。あの店のセンス、私のツボなんだよねぇ!ワンピース買ったその翌年は、ライオンのチャームのイヤリングも買ったよ。」
「そーだっけ?そんなに買い物してたのか。フハッ!」
神さまにお参りする前だというのに、まったく、のん気な会話だ。
10分も歩けば、もう到着。第一の鳥居が見える。
手水舎でお清めして、ここからは、ココロ静かにして、行くよ。
お話するときは、小さな声でね。
(「すず、フク。鳥居の前ではきちんと一礼するんだよ。」)
(「あーいっ!」)
ペコッ。
(「そうそう、よくできました。」)
みんなで一歩ずつ一歩ずつ、正宮へ向かって砂利をけっていく。
あっ、まぁおれらは実際のところはトートバッグに入って抱っこされてるから、砂利をけってるのはリンくんとエンチョーなのだけど。
第二鳥居まで来ると、お参りを終えたとおぼしき三人組の御婦人がスマホを片手に話しかけてきた。
「写真、お願いしてもいいですかぁー?」
「アッ。はーい。いっきまーす。いーちっにーっさーんっ。(パシャ)」
御婦人たちに向かってリンくんが声がけをしつつ、3枚ほど。
おれは、その度に、
(おいっ!リンくん?その、”いーちっにーっさーんっ”って・・・まるでイノキかよっ!!!)
って突っ込みたくなる気持ちを懸命に抑えて、撮り終わるのを待っていた。
そう、ここは神聖な場所なのだから。新入りのすずやフクたちの手前、リーダーのおれがはしゃいだりふざけたりしちゃあ格好がつかないじゃないか。
「ふぅ・・・。じゃ、行こっか。」
ペコッ。
ただでさえ高い木々に囲まれてうっそうとしているこの表参道は、晴れていてもなかなか日差しは届かない。ましてや今日は曇りがちなものだから、ひんやりと冷たい空気が流れている。それがまたビシッとココロを落ち着かせてくれるのだった。
正宮前に到着。
「ここからはおしゃべりしないよ。練習の成果、発揮してよね。」
「あーいっ!」
さぁ、みんなで、豊受さんにご挨拶をしよう。
せーのっ!
ペコッペコッ・・・パンッ(ぱふ。。。)・・・パンッ(ぽふ。。。)・・・
ジィー・・・
ペコッ
(無事に、新加入メンバーも勢ぞろいで、お伊勢参りができました。豊受さん、アリガトなのー!!!)
おれはココロの中でそうお伝えして、とっても満足した気持ちになったの。
フゥ・・・。これでまずは一息つけるかな。
そのときだ。
はらり、はらり。
はらり、はらり。
白い、粒。
雪だ。
白い雪が、ひとつぶ、ふたつぶ、みつぶ・・・
ふわふわ、ふわふわと舞ってきた。
豊受さんにパンパンし終えて間もなく、まだ正宮の鳥居を出たばかりのところにいる。
おれらがお参りを終えるのを待ち構えていたかのように、はらりはらりと、雪が舞ってきた。
「うわぁ!初雪だぁあー!」
リンくんが思わず声を出す。
「わぁ!わぁ!」
今シーズンの初雪を、まさか豊受さんで見ることになるとは、思ってもみなかった。
「ウサギのすずが、初めてのお伊勢参りに来たからかな?豊受さんがさぁ、すずちゃん、よく来てくれたね、って言ってくれたのかも。」
「うふふ!うふふ!そぉなのー?トヨウケさんって人、いい人だねー!」
「すず。豊受さんは、神さまだよ。人じゃないってば。もう・・・。」
「アッそっかぁー!あははは!」
みるみるうちに、雪の粒は大きくなり、間隔も短くなってきた。
「あれれ、これは結構本降りだよ?急いで、お宿に向かおう。」
そんなわけで、帰りの参道を足早に通り抜けることになった。
ペコッ。
最後の鳥居で一礼すると、もうそこからは駆け足だ。
「ひぃー!雪ぃーーー!ちべたい!」
リンくんが、ぎゃあぎゃあ言いながら横断歩道を渡る。
「すず、雪うさぎぃぃぃぃっ!うわぁぁぁい!すず、雪、はじめてー!」
「そぉか。きっとすずは昔にも見たことあるはずなんだけどな?ボブ家に来てからは初めてだもんね。よかったなぁ!」
「うん!ゆぅきぃうぅさぁぎぃぃぃぃー!(雪うさぎー!)パタパタパタパタ!」
そんなわけで、今回のお伊勢参りも、なんとか無事にスタートを切ったのだった。
こんなに神聖な場所で、真っ白くはかない初雪をまとって、すずは雪うさぎさんになった。
きっと、御利益あるよ、ね。
「さぁ、明日はいよいよ内宮、アマテラスさんへご挨拶だからね。すず、今夜はちゃんと眠るんだよ。」
「あーいっ!」
すずのおでこについた雪の粒は、あっという間に溶けて消えていった。
駅前のロータリーの電灯が点いた。伊勢の町の日が暮れて、これから夜がやって来る。
やはり、ここは神さまのいる場所だ。
おれは、ひとつ身ぶるいをした。
ボブお
伊勢・名古屋旅行記 その1 ↓↓↓
「ゴゥ!ウェーストっ!大作戦」
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「神さまの料理番」
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伊勢・名古屋旅行記 その3 ↓↓↓
「おかげさまのココロ」
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