ペンギン勘九郎、はじめてのおつかい

いいかい、勘九郎?
くれぐれも、どうぶつの勘に頼らず、Googleマップ見て、ちゃんと行くんだよ。

地下鉄の乗り換えまではリンくんが知ってるらしいけど、駅に降りてからは初めての場所だから、お前さんがしっかりしなきゃダメだよ。なにせ、リンくんはいつもの通り、チューイサンマンのキョドーフシンだから、勘九郎が、リンくんをちゃんと目的地まで連れて行くように。転んだり電柱にぶつかったりしないように、エスコートすること。
それから、目的地のお店に着いたら、きちんとオトモダチにごあいさつするんだよ。ごあいさつ、できるよね?わたしはペンギンの勘九郎です、ってね。言えるよね?
あ、そうそう。リンくん、人見知りを発揮して勘九郎の背中に隠れてモジモジするかもしれないから、ちゃあんとリンくんにもおっきい声で名前言うように仕向けるんだよ。
それからそれから・・・。

ハァ。
ペンギンの勘九郎でっす。
朝もはよから、ライオンのボブおさんの話が長くて、ちょっと困ってます。
 

“ボブおさんたち、わっしのことが心配らしい”

わっし、実は今日、生まれてはじめてのおつかいなんです!おつかいといっても、まぁ、リンくんの付き添いなんで、正しくはリンくんとわっし勘九郎のふたりでのおつかい、ってことになりますが、いつもだったらライオンのボブ家の誰かだったり、他のちびこーずの仲間だったり、誰かしらが一緒に来てくれることが多いので、オハナひとりでのおでかけは、ちょっと大役なんです。エッヘン!
ついつい気合がはいって、首の蝶ネクタイ、曲がってないかな?とか、鼻毛出てないかな?とか鏡見ちゃうよねーっ。オイッ、ペンギンに鼻毛あるんかーい!ってだれか突っ込んでよって自分で言っちゃうくらい、テンションが上ってるんだ!

それでね、それでねー。何を買いにおでかけするのかというと・・・。
(ドンドコドンドコドンドコドコドコ・・・じゃーんっ!)
大・大・大好きな、クッキーなのです!


我がボブ家のなかで、わっしは別名、”スイーツ番長”と呼ばれててね。甘いものもしょっぱいものも、お菓子のことなら勘九郎にお任せあぁれぇ!なんです。だから、今日はスイーツを買いに行くご用事っていうわけで、ご指名受けたのです。

勘九郎、ほらー、そろそろ出るよ。準備して。

リンくん、珍しくマスカラなんぞ塗ってるじゃーん。

あーいやいや、えっと。まぁ一応?トーキョー行くしさっ。
そんな勘九郎だって、蝶ネクタイ、決まってるよ。

あっそぉお?エッヘン。

リンくんとそんなやりとりをしていたら、ボブおさんにまた声をかけられた。

ほらほら、リンくんも勘九郎も、遅れるよー!
ハンカチもった?マスクもった?傘もった?ピッタくんへのおみやげもった?いい?ちゃんとごあいさつするんだよ!
ホラ!気をつけて、行ってらっしゃい。遅くならないようにね!

急かされるようにして、リンくんはあわてて靴をはき、わっしはあわててリンくんのリュックに入った。玄関で手を振りながら見送る今日のボブおさんは、まるで心配性のお母さんみたいだ。

行ってきま―あァァァス!カンカンカカーンカンカカーン!

パタパタと足取り軽く、いや、羽根取り軽く?、わっしとリンくんは家を出たのだった。
はじめてのおつかい、スタートでっす!

今日買いに行くクッキー屋さんのことなんだけどね、ただのその辺のクッキー屋さんってわけじゃないんだ。わっしにとって、とっても特別な、お気に入りのお店なんだよ。

お店の名前は”omnomnom(オムノムノム)”。店員さんはパタスモンキーのピッタくんといってね、わっしとオトモダチになってくれたおサルさんがやっているお店なんだ。ピッタくん、普段はオーサカってところで暮らしながら、カパくんっていう店長さんとお店番をしてるんだけれど、この週末は、なんと、トーキョーまで出張販売にやってくるっていうんだ!
そのことを聞いて、わっし、嬉しくて飛び回っちゃったよね!あっ、ペンギンなんだから飛べないでしょ!とか言うのやめてよね!
パタパタ!パタパタ!って、うれしくなって、あっちこっちを飛びはねたの。

ピッタくんとわっしとは、以前ピッタくんが我が家のポストにクッキーのお届けものをしてくれてからの仲だ。そのときのお礼もしたいし、いつかオーサカのお店にも遊びに行きたいなって思ってはいるのだけれど、これまでなかなかチャンスがなかったんだ。
ピッタくんのクッキーは、とても美味しい。もうひとことだけ添えて言うと、混じりっけなしの美味しさだ。
まっすぐにストン、とわっしのカラダに入ってくる。クンクンと香ばしい香りを楽しんでから、チョンっとくちばしの先で口に含むと、サクホロっとほどける。食べたあとに脂っぽくなく重くないのが、すごく好きだ。なにせ、小麦粉じゃなくて米粉を使ってるという、いわゆるグルテンフリーなクッキーは、とっても珍しいと思う。小麦粉に米粉を混ぜたモノは見かけることはあるけど、米粉だけで、こんなに風味も食感もステキなお菓子をわっしは他に知らない。

あーっ!ピッタくんのクッキーのお味のことを思い出したら、ヨダレでちゃうぅ。またすぐにでも食べたくなっちゃうよね!
そんなこんなで、ピッタくんに会いに、いそいそとトーキョーへ向かった。

ガタンゴトン。ガタンゴトン。

地下鉄に揺られて、お店のある駅まで向かう。土曜日の午前。世の中は三連休でシルバーウィークの初日だ。台風14号がすでに西の方で猛威をふるい始めていて、コッチもいつ雨雲が来るんだろうかとビクビクしていたけれど、駅の改札を出ると空は青く、真夏のような蒸し暑さが残る空気が流れていた。

三ノ輪駅。

勘九郎、着いたぁねぇ。あっみてみてー!スカイツリー見えるよぉ。こないだ、みんなであの真下まで行ったよねー!
 

只今の時刻は、約束の時間の30分前。ここから徒歩5分ほどだというから、時間的には余裕・・・のはずだった。

ついさっきまでGoogleマップを眺めていたはずのリンくん、駅の改札を抜けたとたん目の前にスカイツリーを見つけて、なぜかそっちの方向へぐんぐんと歩き始めた。果たして方向があってるのかどうか、わっしにはよくわからない。

勘九郎、勘九郎。写真撮ってあげるよぉ。ホラ、そこ立って!

はぁーい。

パシャっ!

“んっ?”
“スカイツリー見えた!”

ねぇねぇ、リンくん、方向コッチで合ってるの?

えーわかんない。まだ時間あるから、ヘーキヘーキ。おさんぽおさんぽ!

わっし、今朝のボブおさんのコトバを思い出して、ハッとした。
「勘九郎がリンくんをちゃんと目的地まで連れて行くように。」

カンカンカカーン!
リンくーん!ダメっ!もっかいGoogleマップ見てよっ!ちゃんと場所確認するっ!ボブおさんに怒られるよー!

はっハイ・・・。

まったく反対の方向に歩いてきていたことがわかった。ヤレヤレ。もう一度駅の出口まで戻ってやり直しだ。

“三ノ輪駅(東京メトロ日比谷線)からやり直し”

三ノ輪という町には、都電荒川線というトーキョーで唯一の路面電車が走っていて、その終着駅でもある。ジョイフル三ノ輪という商店街があって、おさんぽスポットにもなっている。今日ピッタくんが臨時のお店を開くのは、都電の三ノ輪橋駅からほど近くの”都電カフェ”という場所で、その一角で、ピッタくんとわっしは会う約束をしていた。

“角打ち発見!ホントなら一杯やりたいところ!”
“高架下。可愛らしいイラストが書いてあってステキなの”
“三ノ輪橋駅前。都電が停まってたよ”

ねぇねぇリンくん?ピッタくん、無事にオーサカからもう着いてるのかな?
あーいあいっあーいあいっ!って歌いながらクッキーいっぱい背負って来てくれてるのかなぁ?わっし、とっても楽しみにしてたから、ワクワクが止まらないよー!

“都電屋”。
木彫りの重厚な看板が目印となっている店の軒先をくぐり、ピッタくんの姿を探した。いっぱい練習してきたごあいさつをちゃんとしないと。あと、リンくんにもちゃんとごあいさつ、させないと。胸がトキトキと高鳴るのを抑えながら、奥の席へと進んだ。

“都電屋の前に到着!”

アッ。アルコール消毒忘れた・・・!

リンくん、やっぱりキンチョーしてるっぽい。もう一度店の入口まで戻ってプシューと両手に吹き付けてゴシゴシしてから、再度、それらしきテーブルへと歩みを進めた。わっしは消毒されたそのリンくんの手の中から、恐る恐る、顔を出してみたのだった。

コ・・・コーンニチワー!

あぁー!リンさぁん。こんにちはー!

さっそくニンゲン同士で会話が始まったらしい。やばっ、わっしもちゃんとごあいさつしなくては。

コンニチワーニ!ペンギンの勘九郎といいます。あ、コチラのニンゲンのほうは、リンといいます。よろしくお願いします。

ピッタくんを取り囲むように、すでに周りにはたぁくさんのお客さんがいた。ピッタくんのトーキョー出張店舗はすでに大盛況のようだった。ちゃんと数えたわけじゃないけれど、すでに先客は20名程はいたんじゃなかろうか。

あとから聞いたところによれば、この”都電カフェ”のある荒川区のおうえん大使の、あら坊くんとあらみぃちゃんがこの場所を予約してくれて、omnomnomファンならびにピッタくんファンのみんなが集えるように調整してくれたのだという。わっしのあとからもピッタくん目当てのお客さんは続々と来て、気がつけばおっきいさんもちっさいさんもたくさんの、わっちゃわちゃの大集会となった。クマちゃん、ナマケモノさん、プーさんやカエルさん、フモさんやワンちゃん、パンダさんにうさぎさん。そんななかにわっしペンギンはひとりだった。

そんな大集団が、カフェの一角のアッチコッチで自己紹介やらたわいもないおしゃべりが始まるなか、わっしは改めて、ピッタくんに近づいて、話しかけてみた。

“勘九郎(左)とピッタくん(右)、初のツーショット”

ピッタくん、こんにちわーに。ペンギンの勘九郎だよ。
この間は、うちのポストまでお届けものに来てくれて、どうもありがとうなの。わっし、ピッタくんの米粉クッキー、とっても気に入っちゃってさ。すごく、好きなんだ。すっかりピッタくんのファンだよ。

そうそう、この間の我が家のポストの中での時間、特別だったよ。あのときさぁ、配達の途中だからといって、ピッタくん、ほんのひとことごあいさつを交わしただけで、ぴゅいーと風のように帰っていってしまったよね。ほんとはお茶の一杯でもビールの一杯でも、お礼にごちそうしたかったの。
今日、改めて、会えて、嬉しいよ。ありがとうなの。*

わっしがひといきにそう伝えると、ピッタくんは少しだけ表情を和らげた。そして、左手に握ったビールジョッキをひょいと持ち上げて、口を開いた。

勘九郎くん!ほら、飲もーよ!再会に、カンパーイ!

あっ、しまった、わっしはビールを注文してないから、とりあえずアイスコーヒーでもいいかな?
うん。我々の再会に、カーンパーイ!

わっしの隣に座るピッタくんは、目鼻立ちの整った小顔で、手も足もとっても長くて、とにかくカッコよかった。何よりも、ピンっと垂直に立つ細長いしっぽが、とても印象的だった。

あ。わっし、ひとつ、ピッタくんに謝らないといけないことがあったんだった。

ピッタくんのアタマの毛、黄色いでしょ?わっし、てっきり黄色いお帽子をかぶってるのかと思ってたんだ。勘違いして、ゴメンね。すごくキレイな髪の毛の色だね!

あ。それとね、わっし、ピッタくんへのささやかなお礼に、おみやげもってきたんだ。チーバのピーナッツ。もし良かったら、大好きなビールのおつまみに、食べてみて。

わっしがそうやっていくつかの話をする間にも、ピッタくんはビールをクピ、と口に含みながら、あいづちを打つ。言葉少なに、でも、とても気分が良さそうだった。

ピッタくーん!

あーいあいっ!

他のお客さんからも大人気のピッタくん。あちこちから声がかかっては心地よさそうに応対をする。さすが商人の町オーサカからきたパタスモンキーのピッタくんは、すっかりトーキョーでも人気者になっていた。お客さん全員で集合写真を撮ることになって、わっしもそんななかで有り難いことに、全員とオトモダチになることができた。すごくキンチョーしたけれど、とっても楽しくてうれしい時間だった。ピッタくんを通じて、こんなにたくさんのオトモダチができたことに感謝している。

“集合写真!”
“おっきいみんなに囲まれて、わっし、ドキドキ!”

“ピッタくんのつながりのおかげでいっぱいのオトモダチできたよ”

そういえば、今日は、ライオンのボブくんたちは来なかったんだねー?

何気なく聞かれて、わっしは答えに困った。

(そう。だって、わっし、ひとりでおつかいできるもん!今日ははじめてのおつかいなんだもん!)
・・・そう胸を張って大きな声で答えたいところだったけれど、そんなのまるで子供っぽくて、恥ずかしいなぁと思ってしまって、モゴモゴしちゃった。わっしがすぐに反応できずに困っていると、すかさずリンくんが、用意しておいた答えを読み上げた。

本当は彼らライオンたちも来たがってたんですけど、お店の広さがわからなかったから、小柄のペンギンの勘九郎が代表で来たんです。勘九郎、スイーツ好きなもんで。

そう。わっしは、スイーツ番長なのだ。ひとりで、スイーツのおつかい、できたもん。なんなら、ちゃんとリンくんのこと店まで連れてきて、ちゃんと挨拶もさせたよ。わっし、よく頑張ったって思う。自分で自分褒めてあげたいやつ。なのに、リンくん、エラそーにそんなこと言いやがって。わっしのおかげで人並みにニンゲンらしく過ごせてるっていうのにさぁ!あとでボブおさんに言いつけてやろっ。

あっという間に楽しい時間が過ぎて、お別れの時がきた。

バイバーイ!また遊んでねー!

ピッタくんとピッタくんを通じて出会えたたくさんのオトモダチたちに手と羽根を振って、わっしらはパタパタと家路についたのだった。

みんなー!ただいまぁ。

家に帰ると、ライオンのボブおさんはじめ、みんなが待ち構えていた。

おかえりー!勘九郎!無事だったかー!はじめてのおつかい、ご苦労さまでした!

うん!ちゃんと、受け取って帰ってきたよ。ホラっ!見て見てー!

わっしはピッタくんから受け取ったクッキーをズラぁリと並べて、みんなに自慢して見せた。厳選の4種類のお味。ホントは、全種類制覇したいくらいだったけれど、それは、次回のお楽しみ。

そして、今日のできごと、出会ったオトモダチのことを、ひとつひとつ、みんなに報告したのだった。

あのね。それでね・・・。

うんうん、それで?勘九郎はなんと答えたの?

わっし、うまくコトバが出てこなくって、困っちゃった。だから、好きって。好きなんだって、いった。

そぉか。勘九郎、それは良かったな。好きっていいことだな。

あ、うん。わっし、ピッタくんのクッキーや、ピッタくんのこと、好きだと思ったから。伝わったかな?

ふふ、きっと、伝わったさ。

“ボブおさんたちに今日のできごとを報告したよ”
“それで、それで?”

さ。クッキーのお味見は、報告が終わってからのお楽しみだよ。
カンカンカカーン🎵

ピッタくん、ありがとうございました。
オトモダチになってくれたみんなも、どうもありがとうございました!
とぉっても、楽しかったよ!

勘九郎

Om nom nom(オムノムノム)
ピッタくんが店番をする大阪の米粉クッキー店だよ!↓↓↓
Online shop(オープンしたとのことなのでURL追加しました!2022.9.24 update)
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Instagram

都電カフェ
https://www.tramhotel.com/

*Rin注: ピッタくんと勘九郎との初めての出会いのエピソードはこちらからどうぞ!
「ピッタくんからのお届けもの」

オトモダチになってくれたみんな、どうもありがとーう!
・荒川区おうえん隊さん(あら坊くん&あらみぃちゃん) @GLJnNASTPoTgRdr
・makotoくん&しろくん @jinchuhoukoku
・くまのすけくん @kumanosuke_d
・彩さん(くまのすけくんのあるじさん) @colored07
・茶々丸withぬいちゃんズさん @105_Sloth_044
・ぬふぬふ@ぬおん寮さん @nuon_nuigurumi(Twitter) @bom_nuon(Instagram)

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Rin(リン)

ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。 ライオンのボブ家と愉快な仲間たち、そしてニンゲンのケンイツ園長と一緒に、みどりキャンプ場で暮らしています。 ボブ家の日常を、彼らの視点でつづっていきます。

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