妖怪になにか用かい? – ころすけの旅日記(山陰&山陽編)その1

「うっふん。とうちゃーくっ!」

「あっ!鼠男。あっ!鬼太郎!」

「ぎゃーっ!街灯が目玉の親父になってる!」

うっす、ツキノワグマのころすけでっす。

旅の最初の目的地は、山陰のローカル線の終着駅、ココは境港だ。

今朝9時過ぎに羽田を飛び立った我々は、あっという間に米子空港に到着した。所要1時間半弱。別名、鬼太郎空港ともいわれていて、妖怪で有名なあの水木しげる先生の故郷の地だ。

「わたしにとっては、鬼太郎よりもまんが昭和史なんだよなぁ・・・。水木先生って。高校生の頃お世話になったんだよね。」

リンくんがボソッとつぶやいた。ちなみにリンくんは妖怪だとかお化けだとか、幽霊だとかホラーだとかのたぐいがめっぽう苦手なのだ。なお、ハリーポッターやパイレーツオブカリビアンでさえ、目を覆っている。

「いや、でもさすがにゲゲゲの鬼太郎くらいは見られるよ。実際、子どもの頃見てたしね。」

うん、そんな低いレベルで意地を張らなくてもいいんだけど。

境港の駅前からは水木しげるロードという観光のために整備された遊歩道があって、おおげさじゃなく、5mおきくらいに、妖怪のブロンズ像が建てられているのだ。本当はそのロードの先には水木しげる記念館という建物があるらしいのだけれど、改装のために来年まで休館なのだそうだ。

米子空港からわざわざ北上してココ境港へやってきたのは、そろそろ貧血起こすかもって騒がしいリンくんの”鉄分”補給のためだ。知らない土地をプチ散歩してみようだなんてもっともらしく理由を述べていたけれど。どうやら後から知ったことだけれど、隠岐の島行きのフェリーの発着場になっているらしく、平日の昼前、観光客がちらりほらりとやってきては乗り場へと消えて行った。

そうそう。
今回の旅のメンバーはね、リンくんと、リンママちゃんと、わっしころすけの3人だ。もう70過ぎのリンママちゃんと、オジサン化が急速に進む不注意この上ないリンくんのふたりのニンゲンの面倒をみる、というのが、四十路のツキノワグマであるわっしのミッションなのだ。

そんなリンママちゃん、大好きなiPhoneを片手にぱしぱしと写真を撮りまくっている。果たしてなんの妖怪かわかってるのかどうか怪しいけれど、そこかしこ街中にひそむあいつらを片っ端から撮影している。

「妖怪神社?」

どんな神社かと思えば、鳥居は一反木綿、手水舎には目玉のおやじがプカプカ浮かぶ、かなり変わった趣向だった。絵馬まで妖怪たちのかたちをしている。

ペコっペコっ・・・パンパンっ・・・ペコっ

その頭上では、トンビが旋回していた。

ぴいーひょろろろ。

「ころすけ?トンビにつかまらないようにね。」

「妖怪たちに守られてるから、ヘーキヘーキ。」

小2時間程度かけて、境港の町をうろうろして駅へ戻ると、ちょうど列車が止まっていた。我々が乗る予定にしていた一本前、12時台の二両編成の派手なラッピング列車だ。一両目は目玉のおやじ号、二両目は鼠男号だった。

「ぬおー!じゅるじゅるるる。」

リンくん、よだれ!よだれ出てるよ!

そんなリンくんをそっちのけで、リンママちゃんもフェンス越しの線路に詰め寄り、無心にスマホを向けていた。

「はぁー・・・この母娘、先が思いやられるぜ。」

わっしの不安が増したと同時に、この旅行中でのわっしのミッションがいかに大変なものであるかを理解したのだった。

駅前の回転寿司屋で軽くランチを取って、予定していた13時台の列車に乗り込んだ。

「うわぁ・・・。こなきじじい号に砂かけばばあ号・・・。さっきの目玉のおやじ号と鼠男号のほうがかわいかったな・・・。」

さすがにラッピング車両の選定まではできないよね。フハッ。

気動車のゴルゴルゴルと唸り響く音。10月も下旬だというのに、午後の陽射しが汗ばむくらいだ。リンくんは半袖Tシャツ一枚になって、ペットボトルの麦茶をぐびりとひとくちのどに流し込んだ。

車窓からは黄色の畑。

ン?エ?季節外れの菜の花でもあった?

いいえ。この境線の沿線、かなりの広さでセイタカアワダチソウが生い茂っている。

「セイタカアワダチソウって、花粉あるんじゃなかったかしら?」

リンママちゃんがそんなプチ知識を披露すると、なんだかわっしの目もかゆくなってきた気がした。

さぁ。そんなわけで、とりとめのない会話でひたすら盛り上がるリン母娘とともに、今宵の宿へ向かってレッツゴー。

旅はまだ始まったばかりなのさ。

ころすけ

「おっさんグマの旅じたく」
https://bobingreen.com/2023/10/25/6685/

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Rin(リン)

ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。 ライオンのボブ家と愉快な仲間たち、そしてニンゲンのケンイツ園長と一緒に、みどりキャンプ場で暮らしています。 ボブ家の日常を、彼らの視点でつづっていきます。

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