突風と獅子
ゴォォォゴォォォ・・・
ゴォォォゴォォォ・・・
低いモーター音が、居間に響く。
この連休中に溜め込んだ洗濯物たちが、鴨居に首の皮いちまい引っ掛けて、ぐるんぐるんと強風にあおられている。長袖のTシャツに加えて、ついにというべきか、ようやくというべきか、半袖のTシャツがスタメンに登場した。紺色、薄鼠色、それから、くすみピンク。ケンイツエンチョーとリンくんは色違いで同じTシャツを共有している。サイズも同じ、夏場の我が家のニンゲンたちのユニフォームと化している、ディスカウントストアの680エンのTシャツだ。
去年、扇風機を出したのはいつ頃だっただろう?
窓ガラスを締め切った部屋のソファは、ちょっと湿気を帯びている気がする。
おれは、蒸し暑さを少し感じつつも、干してあるバスタオルから反射してくる強風を小さなカラダに浴びて、ちょっと冷えも感じている。
「ンー・・・。ややこしい天気だなぁ。」
外は、晴れ。晴れているのに、なぜリンくんは室内干しをしているのかというと。
ものすごい強風が吹きすさんでいるからなのだ。推定、10mは超えているんじゃないかな、と思う。Yから始まるネット天気予報では8mとか書いてあるけれど、正直そんな数字じゃ全然足りない気がする。
ライオンのボブおです。
ヒャクジューのオーの獅子といえども、おれはまだまだカラダが小さいからね、風に飛ばされちゃうかもしれないんだよね。だから今日は外出禁止令が出されてるのだけれども、だけれども、ちょっとだけ、蒸し暑さから逃れたくて、みどりテラスの窓ガラスを開けてみた。
ゴキュゥォォォォォ!
ゴキュゥゥゥゥゥウォウォォォォォ!
おれの耳には、そう聞こえた。
風の神さまが、うなり声をあげている。
どうしてそんなに荒ぶるのか?どうしてそんなにエネルギーを開放しようとするのか?
「今宵は満月なんだけど・・・なぁ。雲は切れてるけど、この風じゃぁ正直、のんびりお月見ビールってわけにはいかなそうだね。」
気がついたら、リンくんがおれの横に立っていた。
「あれ、リンくん、来たの。」
「そりゃそうだよ、ボブおひとりでみどりテラス出たら危ないじゃん。しかもこんな強風の中さ、飛ばされちゃったら困るでしょ?」
「あー・・・。うん。」
おれはこっそり行動したつもりだったけれど、すべて見られてしまっていたみたいだ。
ちょっとバツの悪い気持ちになったけれど、おとなしくリンくんの腕に抱っこされることにした。
よいしょ。
「窓ガラス越しに見られたらサイコーなんだけどなぁ。ちょっと角度的に難しいんだよなぁ。あ、そうそう。ねぇねぇ、あの大量の部屋干しさぁ、ちゃんと片してよね?」
「もちろんさぁ。そのために、いまめっちゃ強風で扇風機回してるから。あれ片付けないと、食卓からテレビ見えないんだもんねー。今夜はダラダラテレビ見て飲んでゆっくりするんだ。連休の前半で遊びすぎて、じんましんでちゃった。えへ。」
「うわぁ・・・出た!リンくん、ほんっと、そうなるよねぇ。ま、無事に遊びに行って帰ってこれてるから、いいんだけど。あ、クスリ塗ったのかよ?」
「塗った塗ったぁ。」
「飲みグスリは?」
「・・・そっちはもうない。」
「ビョーイン、行け。」
「いやいや、塗りグスリがあれば治るからぁー!」
「いっつもそうやってギリギリで回すから。早めに行けってば。ゴールデンウィーク明けたら、すぐ行けよ。」
やれやれ。
そうやって、おれとリンくんの日常が戻ってきた。
ゴールデンウィークもあと残りイチニチとちょっと。今日は強風、明日は雨らしいから、おこもりするしかないね。
オハナ(家族)で行く楽しいイベントやおでかけも大好きだけれど、やっぱり、おれはこの我が家、みどりキャンプで過ごす日々が、大好きなのだ。
西の空の雲間に美しく夕陽がもれている。日の入りがだいぶん遅くなって、ちょっとまだカラダが慣れない感じがする。
今宵は満月。
東の空を見上げて、ゆっくりのんびり、いつも通りの夜を、みんなでおだやかに過ごそう。
ゴォォォゴォォォ・・・
窓の外も、家の中も、まだ突風が吹いているけれど。
ボブお