ゲージュツガクブの課外授業(前編)
「すずちゃん、フクちゃん。今日はオハナ学園ゲージュツガクブ(芸術学部)のふたりはね、特別な課外授業だよ。お外にある美術館でいっぱいゲージュツに触れて遊ぼうね。」
「リンくーん!やったーぁ!わぁいどんな授業かなっ?」
「ほらほら、今日はリン先生と呼びなさいな。あくまで授業の一貫なんですよ?うふふ。」
「センセイ?はぁ?誰が?」
「・・・いつも通りでいいです、、、リンくんで。自由に遊び回っていいけどね、ちゃんと感想教えてね。」
「ハーイッ!」
こんにちわーに。ウサギのすずこと鈴之助です!
実はね、すず、「オハナ学園ゲージュツガクブ(芸術学部)」に所属してるの。フクと一緒に音楽や美術、芸術全般について学んでるんだよ。ほら、フクとすず、お歌が好きだからね。
アー!って発声練習してたら、
「よし、すずとフクのために、ゲージュツガクブが必要だな!ふたりとも、今日からゲージュツガクブね。」
って、ケンイツエンチョーに言われたんだ。
あ。ケンイツエンチョーってのはオハナ学園のエンチョーで、校長先生みたいなものかな?我が家のオハナ(家族)はみんなオハナ学園に所属してるんだけどね、すずとフクは、ニンゲンでいうと6才、初等科の一年生なんだ!
そんなわけで、特にゲージュツについていろいろと体験して、おっきくなったらゲージュツカを目指すんだよ。
「ハイ、到着!」
リンくんに連れられてやってきたのは、「箱根彫刻の森美術館」。
ホヨージョ(保養所)に愛車のモビスケを停めてから、まだオシゴトのリモート会議してるケンイツエンチョーと別行動でやってきたってわけ。
「チョーコクって?なに?」
「彫刻ってのはねぇ、彫って立体を造形する表現方法全般のことを言うんだと、思う。」
「はにゃー?」
「見れば、すぐにわかるよ。それからね、彫刻以外のものもたくさんあるからね、キレーなお庭のなかに、不思議なものがいっぱいあるんだよ。広ぉぉぃからね、迷子にだけはならないでね。お約束。」
「あーいっ!迷子にならない、お約束。」
「はい、じゃあコレ。今日の時間割と課題だよ。全部クリアできるかな?」
「楽しみっ楽しみっ!ねっ?フク?」
「うんっ!すずちゃんと一緒ならなんでも楽しいよ!プクプクプクプク・・・!」
「じゃ、れっつごー!」
リンくんはポケットから前売り券を出して、美術館の入り口のもぎりのおネーさんに見せた。
そういえば。今日は金曜日、平日だというのに外のチケット売り場にはかなりの人だかりができていた。なんだろ、このニンゲンたちは?と思うと、8割がたは外国人に見える。ちょっと肌寒い感じの風が吹いているというのに半袖な人たちもいる。みんな首からカメラを下げて(それはリンくんも一緒だけど)、大きな荷物を持て余しつつチケットの列に並んでいたのだった。
「箱根は外国人観光客、ほんと戻ってきてるねぇ!すごい、すごい。」
リンくんはそんな光景を横目に、すいすいするるとスルー。すずとフクはというと、リンくんに抱っこされて、一緒にエスカレーターで下って中へ進んでいったよ。だって、迷子は厳禁だもの。仲良くぴっとし、みんなで手をつないで美術館見学のスタートだよ!
――― ゲージュツガクブ課外授業 時間割 ―――
【1時間目】 二匹のウサギさんを見つけよう
【2時間目】 白と黄色のおいしいもの、なーんだ?
【3時間目】 Pで始まるゲージュツに触れよう
【4時間目】 不思議なカラフル空間を体感しよう
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【1時間目】 二匹のウサギさんを見つけよう
「はい、ではまず1時間目ですよ。この彫刻の森美術館にはたぁくさんの彫刻があるんだけどね、そのなかにウサギさんがいるんだよ!すずとおんなじ、ウサギさんだよ。しかも二匹だって。見つけてみよう!」
「ンー???二匹のウサギさんってさぁ、すずとフクのことじゃなくて?」
「アハッ。まあ、それでもいいんだけどね、って、フクはウサギじゃないし!」
「二匹のウサギさんどこだー?どこだろー?ウーサギさーん!」
薄曇りの空のもと、アッチコッチ歩きまわったの。この美術館はホンットに広くって、黄緑色に美しく輝く芝生とそこかしこに不思議なカタチをした大きな像が点在している。かと思うと、八重桜が咲いていたり、新緑のもみじに気を取られたりと、アッチコッチに興味が飛んでいって、とっても忙しいの。
「アーッ!なんだなんだー!でっかい手!」
「おぉぉぉ?でっかいオジサンのうえにオニーさんが逆さまに立ってる!!!なんじゃこりゃーぁ!」
パタパタパタパタ!
プクプクプクプク!
「ねーねねー!迷路みたいの、ある!お星さまみたいなカタチだよ!上から見に行こー!」
パタパタパタパタ!
プクプクプクプク!
「ふ・・・ふたりとも元気だねぇ・・・早いねぇ・・・!もちょっとだけゆっくり歩いてください・・・。」
「リンくーん、体力なさすぎ!ちゃんと歩いて!ほら、すずが先導してあげるから!リンくんのほうが迷子になっちゃうよぉ?」
「フゥ・・・。クピ。」
リンくんは水分補給してから、すずとフクの後についてやってきた。
誰一人として迷子にならない、というお約束だから。リンくんののんびりペースに合わせてすこしだけスピードを緩めてあげることにした。
リンくんが追いつくのを待っていると、ふと、目の前に黒くて背の高い、細長いものがふたつ見えた。ニンゲンのカタチっぽくない。両手を突き出して向かい合っている。それから、お耳が、長い。
「アレ!!!ねね、リンくん、もしかして、コレ、ウサギさんじゃない?」
「あっ!ホントだー!ウサギさん!見つけたねー!」
「んー、何してるんだろ、向かい合って遊んでる?それともケンカしてる?」
「フクはどう思う?」
「うーん・・・フクはケンカとかしないから、わかんないなー。ウサギさん同士で何してるのかな?」
「すずはどう思うの?」
「アッ!すず、わかったよ、クリンチってやつでしょ!ウサギさん、クリンチ状態!フク、真似っこしてみよ?」
フクと向かい合って二匹のウサギさんの真似をしてみたはいいのだけど・・・
「チュゥ」
おかしいなぁ、キスになっちゃった!
も一回チャレンジ。
「チュゥ」
うふふ、うふふ。
「あれ、すずとフクとで真似するとクリンチじゃなくてチュゥになっちゃうね。」
「あー・・・お手てが小さくて短いから・・・ね。まったく、すずフクは、ホンットに仲良しさんだぁねぇ!」
「えへへ!フク、すずちゃんと仲良し!」
「アハッ!すず、フクと仲良し!」
ふたりでチュゥチュゥしてる後ろで、二匹の黒ウサギたちはずっとクリンチを続けていたのだった。
パンチパンチ・・・
チュゥチュゥ・・・
(2時間目以降は、後編に続くよ!お楽しみにー!)
すず(鈴之助)