お日さまの下でおにぎりを食べる
「フゥ。よっこらしょ。」
「アーっ!ようやく出られたぁーーー!」
汗ばむくらいの強い陽射し。まだ4月だというのに、初夏みたいな日なの。
あ、フクこと鰒太郎です。
今日はね、すずちゃんと一緒におさんぽに連れてきてもらったんだ。
ケンイツエンチョーがオシゴトに出かけるっていうから、駅まで一緒に歩いてお見送りしてね、行ってらっしゃーいってして別れてから、それからちょっと足を伸ばして、近くの公園までやってきた。
だけれども、あちらこちら、手頃なベンチはみんな埋まってる。
ご近所のママさんの集まりかと思われるネーさん4人組。この公園の特等席の屋根付きのテーブルで、Mのマークのハンバーガー屋の紙包みを広げて、大笑いをしながら楽しそうに屋外ランチ会を決め込んでいる。
池の横の木陰になっているベンチは、シニアカップルが仲良さそうにおしゃべり中だし、遊具広場の近くのそれは、ちびっこ連れのママさんたちの荷物置き場として活躍中だ。
「はふぅ。直射日光バリバリのところしか空いてないけど、正直、今日は暑すぎて無理よ・・・!」
リンくんがボヤきながら、ポケットに手を突っ込んだ。いつものシャツコートの、でっかいポケットだ。
そう、そのポケットの中には、おにぎりがひとつ、入ってるのを知ってるよ。さっきコンビニで買った、おにぎり。
すずフクと一緒に食べるんだって言って、買ってくれたんだ。今日のお昼は、公園のベンチでおにぎり食べようねって話しててね、それだけで、フク、ちょっとワクワクするの。
「はー、アッチぃ・・・。異常気象でしょ、ホント・・・。」
公園のベンチがなかなか空きそうにないから、通りを渡って、水路のある遊歩道にやってきた。
新興住宅地の裏手を流れる、チロチロと小川ともいえないくらいの細い水路で、でも珍しいことにザリガニが生息しているらしく、時折ちびっこたちが釣り糸を垂らしているのを見かける場所だ。
「あ、やっぱり、ベンチあった。」
リンくんが公園脇の水路のある遊歩道のベンチをようやく確保したと思ったら、ようやくおにぎりを出してくれた。
「すずフク、お顔出していいよぉ!だけど、やっぱりちょっと日は当たるから、日焼けしないようにちょこっとだけね。」
ぴょこっ!
ぴょこっ!
「すずフク、とうじょーう!いえーい!」
わたしはすずちゃんと一緒に、リンくんの黒いリュックから出してもらって、ようやくお日さまを見ることができた。
「リンくーん、ほんとだぁ。今日、暑いねぇ・・・!」
ペリペリペリペリ・・・
いつものことだからもうびっくりしないけれど、リンくんはハラへりになると無口になる。ついでに指先が冷たくなって、完全に省エネモードに入る。
反応が返ってこないと思ったら、早速、無言でおにぎりのパッケージを開けていた。
「ハイッ、どーぞ。食べよ。おなかすいたぁー!」
「せーのっ。いっただっきまーす!!!」
もっぐもっぐもっぐもっぐ・・・
もっぐもっぐもっぐもっぐ・・・
「ねぇねぇフク、お外で食べるおにぎりってどうしておいしいんだろうなー?」
「ホントだねぇ、おいしいねぇ!もっぐもっぐ・・・。フクはね、すずちゃんと一緒に食べたら、なんでもおいしいよ。」
「ンー。フク、うれしいけど、返事になってないねぇ!」
「アハッ!お外で食べると、季節のお花の匂いや、鳥さんの鳴く声、お日さまに照らされて輝く葉っぱや、地面に作られるやさしく動く影や、そういった景色が一緒くたになるからじゃないかなーぁ?すずは、そう思う!」
「もぐもぐ・・・、フクはおうちでみんなで食べてもおいしいよ?」
「フクは食いしん坊さんだからなぁ!でもね、すずは、そんなフクが大好きだよ!」
「もっぐもっぐ・・・あ、このちりめん山椒ってやつ、おいしいねぇー。」
「アハッ!フク、おにぎりに夢中で、全然話聞いてない。」
ハッ・・・!すっかり目の前のおにぎりに集中しちゃった!
ツンツンツンツン
一羽のムクドリが、地面を突きながら目の前を通り過ぎた。
そっか、鳥さんもお日さまの下でゴハン食べてるんだね。
一緒、一緒。みんなでおにぎり食べよう。お日さまの下で。
「おいしいね。おいしいね。」
もっぐもっぐ・・・
「あーっ!フク、わたしの分、ひと口取っておいてよー?」
エヘヘ。リンくんごめんね、おいしいからついつい食べ過ぎちゃった!
こんな小さなシアワセがあって、フクはとってもうれしいの。
フク(鰒太郎)