ライオンボブこ、秘密の宝探し
「咲き始めのバラ、見ぃつけたっ!」
ほのかに香りを放つオールドローズのカナリーバード。
一見するといらゆる一般的なバラとは少し違う花びらのつき方の、この一重の控えめな子が、わたしは好きなの。
色ははっきりとしたイエロー。今朝の強い太陽の光のもと、キラキラと美しく輝いているよう。
こんにちわーに。わたし、ボブこよ。
わたしが、秘密の花園へのパスポートを手に入れてから、一年が経とうとしているの。何度来たのかしら・・・?数えてみたら、今日で、9回目だったわ!夏場は暑すぎて、そして秋口はハチさんがブンブン多くてちょっと避けてしまったけれど、まぁまぁの成績ね。
今朝のこと。
「ボブこさーん。バラ園の年パスがあと数日で切れるのですが・・・。あ、もちろん更新するつもりではあるんだけどね?その前に、今日ちょこっと様子見に行かない?」
「あら!もちろんよ!行くー!」
いつもだったらね、リンくんとふたりで行くのだけれど。今日は様子が違った。
「・・・なぁなぁ・・・ネーちゃん?おでも行っても、いーい?」
「エ?珍しいのねぇ、ボブぞ、バラ好きだったっけ?今日は野球の練習はいいの?」
「アハッ!ネーちゃん、おで、野球選手とカメラマンのニトーリューするんだもん。カメラマンなの!ネーちゃんのこと写真撮るからさーぁ、お願いだから、おでのことも連れてって?ね?ね?」
ふふ。弟のボブぞ、新しいカメラ(通称ソニお)がやってきてからというもの、写真を撮りたくて撮りたくて仕方がないらしいのね。お外に出かけてはなんでもかんでもにレンズを向けては、いっぱいシャッターを押すのが楽しいみたい。
「そ、そそそそんなことないもん!美しいネーちゃんと美しい景色を撮りたいのだよぉ!」
「もちろん、いいわよ。行きましょ!」
「うわーい!やったやったやったー!!!」
そんなわけで、わたしと弟のボブぞ、そしてリンくんの3人でテクテクテクテクやってきたってわけ。
一年で9回目、ともなれば慣れたもので。閑散期はチケット売り場に係員さんはいないので、売店の中に入って、そこで品出しをしている店員さんに年パスを見せる。
「行ってきまぁす!」
ROSE GARDENとかかげる園の入口の扉は閉まっている。カギはかかっていないから、自分の手で、ギギギ・・・と開けて入って、ギギギ・・・とまた閉める。
“春バラに向けて準備中です”
看板に書いてある通り、まさに今は春バラ開花の直前で、春イベントの開始が数日後に控えているのだった。
想像どおり、園内に人はほとんどいない。あちらこちらで庭を手入れする係員さんたちが忙しそうに手を動かしているけれど、すれ違うお客さんを数えるほうが簡単なくらいなの。
入口をくぐると、いつものルートを左回りにたどる。
空がちゃんと、青い。風は少しあるけれど、昨日の雷雨がうそのように穏やかね。
あちらこちらに植えられた植物たち。ここはバラ園とは言うものの、実はバラ以外の草木もたくさんの種類があって、それぞれがそれぞれに役割を果たしている。
わたしたちは花園の命を感じ取りながら、春の新緑を楽しんだ。
「見て見て!ハート型の葉っぱ!!!」
「ほぉー!かわいいー!カツラだって。あぁ、確か、落葉の時期に来たときにも見たかも・・・!」
「うふふ、わたしからみんなへ愛を込めて!うふふ!」
「うわあーネーちゃんは美しい景色がやっぱり似合うねぇ!」
ボブぞはカメラを構えてはアッチの角度、コッチの角度と忙しくシャッターを押している。
リンくんはというと、そんなカメラマンボブぞの姿をうれしそうにスマホで撮影している。
うーん・・・。写真もいいけれど、ちゃんとこの空気そのものを五感で楽しみましょうよ、ね。
去年はでっかいハチにさえぎられて近づくこともできなかった藤の花棚。今年こそは見られるかしら?と楽しみにしてきたのだけれど・・・、周辺一帯が重機を使っての工事中で、立ち入ることができなかったの。
どうやらここに新しいエリアができるのだそう。それはそれで楽しみね。
(スミマセーン、失礼します。このあたり工事中でして・・・すみません。)
「アッアッごめんなさーい!」
・・・と、そんなわけで、そそくさと退散。
気を取り直して、歩みを進めるわたしたち。
春バラといえば、それは、つるバラ。
春と秋、年二回咲くバラの品種は多いのだけれど、つるバラは春しか咲かないの。だからこそ、春はバラ園全体が華やかになるし、見ごたえがあるのよね。
そして、つるバラといえば、大きなアーチ!
「アッ!!!ボブこさん、もう咲いてる子がいるよ!」
「ホントね!うわぁ・・・!キレー!」
ひとぉつ、ふたぁつ、みっつ。
ここに!あ、ここにも!あら!あそこにも!
八重桜がひらひらと花びらを落とす横で、咲き始めのつるバラが元気に花を開かせる。まるでクロスフェードのように、この花園全体が命をつなぎ、調和していることがよくわかる。
草花がやさしく風にそよぐ音、木々の新芽が足元に作るやさしい影、バラが一輪また一輪と開いてゆくそのかぐわしい瞬間。
だぁれもいないこの閑散とした花園で、まるで、わたしたちだけの秘密の宝探しをしたみたいで楽しかったわ。
さぁ。
いよいよ、春バラシーズンがやってくるのね!
とっても楽しみで、今からワクワクするの!
「リンくん、年パスの更新、よろしくね!」
「ハイ、もちろんでございますよ!ボブこお嬢さま。」
「おで、次もカメラマンとして同行したい!」
うふふ。うふふ。うふふ。
わたしたちの秘密。大切にしなくちゃね。
ボブこ