ライオン、キジを見かける
ギョッ・・・ギョッ・・・ギョッ・・・ギョッ・・・
ギョッ・・・ギョッ・・・ギョッ・・・ギョッ・・・
今日は最高気温が15℃までしか上がらないという。10月も最終週に突入したけれど、それにしても肌寒い。みどりテラスを抜ける風は冷たく、空は灰色がちでもしゃもしゃとした雲でおおわれ、日差しをあちこちに屈折させている。
日暮れに差しかかった、午後3時半頃。
今日の工事はもう終了したのだろうか、眼下の例の作業小屋(ヒムロックの流れるサッシ業者の臨時小屋だ)*は車両もはけて、静かな時を取り戻している。
聞き覚えのない音を感じて、みどりテラスの手すりからのぞいてみると、向かいの林のなかに、動くものを発見した。
ギョッ・・・ギョッ・・・ギョッ・・・ギョッ・・・
ギョッ・・・ギョッ・・・ギョッ・・・ギョッ・・・
・・・キジだ!キジがいる。
実は、このみどりテラス、春から初夏にかけて、キジの鳴き声が聞こえることはよくある。そのときは、クワァーックワァーッ!という威嚇するような特徴的な声なので、その姿は見えなくとも、あぁ、キジの季節だなぁ、今年も無事に鳴いてるなぁ、くらいに思っていた。その時期は林の木々や草が生い茂っていて、地面の様子はもっと見えにくいのだ。
しかし、11月を翌週に控えたこの秋深まる季節には、草木は茶褐色に変わり、多少なりとも見通しが良くなっている。地面の上をモソモソと動いているその形は、キジなのではないか、そう思えた。一時期リンくんがはまっていた野鳥図鑑や、ネットの画像検索をして見ていた、あの色、あのシルエットだ。
ねぇリンくん、キジいるよー!
部屋の中に向かっておれがそう言うと、毛玉のついた厚手のルームソックスの上にビーサンを無理やりつっかけたリンくんが、のそのそとやってきた。手にはカメラを持ってる。おれの、オリンパスだ。
ボブお、よく見つけたねぇ、ドコドコ?・・・あ、あそこかぁ!ほぉ。ホントだぁー。
あ、ハイ。どうぞ。
うむ。
(シャリラン♪)
おれはリンくんからカメラを受け取ると、電源をONにした。起動音が鳴る。ズズズっとズームにした。双眼鏡代わりにもなるのがこのオリンパスのいいところだ。
その間にも、キジはずっと泣き続けている。定間隔でリズムを取るように、ギョッ・・・ギョッ・・・、だ。みどりテラスからの角度で木の向こう側に隠れる瞬間もあるが、奥から手前へ、確実に声は近づいていた。
オレはリンくんの手を借りつつ、ズズッとシャッターチャンスを待つ。
ギョッ・・・ギョッ・・・
そのとき、スタスタと右から左に向かって、その細い脚をスタスタと上手に動かして移動するキジをとらえた。
カシャ。カシャ。
おれは一生懸命、キジの動きを追った。
カシャ。カシャ。
ギョッ・・・ギョッ・・・
一体彼は、何を訴えているのだろう。
その声は止むことなく、5分ほどおれの前で移動を続けた後、林の奥の方へと姿を消していった。探しものは見つかったのだろうか。その直後に、鳴き声もぱたりと聞こえなくなった。
おれのカメラには、キジを追った21枚の画像データが残っていた。精一杯追ったけれど、おれはその美しく鮮やかな羽根の色と強い鳴き声に気を取られて、彼の視線の先のことにはまったく気を回すことができなかった。
うーん。鳥って、考えてることわからないなぁ・・・。
もうすぐこの林には闇夜が訪れる。秋の日はなんちゃらとはよくいったもので、なにせ、日の入りが5時を待てないのだというから驚く。そりゃあ、冷えるわけだ。おれはTシャツの袖をグッと伸ばして、それから、リンくんの腕の中に暖を求めた。
おれらは、今日もみどりテラスで生きている。
おれの周りは、生きた音と色で満ちていて、毎日それらを探して遊んでいる。
あのキジは、みどりテラスのお隣の林の中で、生きていて、何かを探していた。
キジさん、鳴き声とその美しい姿でおれらを楽しませてくれて、ありがとう。
キジさんの探しものも、見つかるといいなぁ。
ボブお
*Rin注: ボブ家の暮らす団地の大規模サッシ工事についてはこちら
「サッシ工事のマリオネット」
https://bobingreen.com/2022/10/19/2817/